サンタが会にやって来た!

『関東お月見会』
それは、ご町内のアイドル、そして学園のアイドル夜神月を湛える男達の、
熱く、そして、ちょっとむさ苦しく想いを騙りあう憩いの場。
中学卒業高校進学によって、月と同じ学び舎で学べなくなる事を嘆いた同級生達の、
男の友情と萌心が猛りに猛った結果うまれた電脳の箱の中のサロンだ。
卒業式後の校門前で、夜神月に群がる女子を指を加えて見ているしかなかった男子一同。
ふと誰かが言った。

『俺達もあぁやって堂々と騒ぎたかった‥‥』と。

騒ぐだけなら幾らでも出来るし、やってきた。ただし、それはあくまで男の友情として。
なにせ夜神月は見た目に反して中身はすこぶる漢なのだ。

『俺も、月カワイイ~とか言って、あいつに抱き付きたかった‥‥』
『お前は俺の心の恋人だ!と、言いたかった‥‥』
『お前以上に可愛い子を知らないと、言いたかった‥‥』
『別れたくない‥‥』
『でも、俺の頭じゃ同じ高校には入れなかった‥‥』

やりたかったのは某アイドルグループのコンサート会場で盛り上がる、
アイドルオタク達のような騒ぎ方だ。思いの丈をありったけ声に出して叫びたいのだ!

『月!!!!!好きだ~~~~~!!!!!!!!!!!!!』と。

恋人になれたらそりゃぁ嬉しいが、月はその点いたってノーマルだし彼らもノーマルだ。
(後に、背が伸び出しちょっとコンプレックスを克服した月が、
 女だけでなく男とも付き合いだすと判っていたら遠慮なんかしなかった(>_<)
 でも、男とはチュウだけらしいのが如何にも月らしい、流石は俺達の月だ!とは、
 目にも思考にもフィルターの掛かった彼らのおバカな見解)
それに、自分の恋人にして独占してしまったら人類の損失(はい?)だとも思う。
そう、月はみんなのアイドル、みんなの宝。ひいては日本のアイドル、宝なのだ!
(将来は父親の後を継いで刑事に、警察庁長官になる事間違いなし!と、
 中学生ながらに信じて疑っていなかった純粋な彼ら。
 月ならきっと総理大臣だって夢じゃない!!その時は手弁当で応援に行くぜ!!!)
そんな月を独占する事は罪以外の何ものでもない!(‥‥おい)
だったら‥‥あぁ、だったらせめて、あの女子達のように騒ぎたい!
美しいものを心おきなく愛でて感想を言い合いたい!!

『今日の俺のブログは、月との別れの涙で埋まりそうだ』
『お前、ブログやってんの?』
『俺もやってるぞ~』
『俺も俺も』
『俺さぁ、ブログに時々月の事書くんだけどさぁ』
『あ~、俺も書いた事ある』
『その時の反応がさ、それって本当に男か?とか、本当についてんのか?とか、
 結構失礼なんだけど。まぁ、なんつ~か、それも有り?な反応でさぁ』
『判る判る。特に小学校の頃とか、どうして女じゃないんだ?こいつ、とか俺も思った』
『それにレスする時、つい熱く語っちゃうんだよなぁ、月の事』
『バカにされっぞ』
『もうされた。ホモ扱いもされた。俺はホモじゃないっての』
『だな、単なる月ファンだよな』
『『『『『『『『『『だな!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』
『じゃぁ、ファンクラブでも作るか』
『『『『『『『『『『!!!!!!!!!!グッドアイディア!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』

ってな経緯で、ファンクラブ結成が決まった。
その日のうちに唯一月と同じ高校に進学が決まった山元をも引き込み、
彼の案でファン活動はネット上、厳密な会員制をとる事となった。
さらに次の日、月(ついでに山元も)が通っていたPC教室の講師に話を持ち込むと、
彼は鼻息荒く『俺がそのファンクラブの管理人になる!』と言って来た。
そして、あれよあれよという間にファンサイトは立ち上がり、
口コミで(ここ重要)会員募集が為された。


会の趣旨は、夜神月の素晴らしさを同志間で心おきなく語り合う、と言うもの。
会員に慣れる条件は、月に会った事があり、月と会話を交わした事があり、
なおかつ!月に顔と名前を覚えて貰っている男に限る!!だ。
その結果、幼稚園小学校中学校と言った幼馴染同級生はもちろん、
テニスを通じての他校の生徒、教育委員会役員、
町内老人会、防犯委員会、児童会父兄の親父の皆様、
スポーツ青年団の世話役から塾仲間に塾講師、
それから近くの交番のお巡りさんに学校指定病院の内科の先生などなど。
何だか月の交友関係(ただ学校行事関連で知り合っただけの気も)の広さに、
かな~~~~~り!驚かされる数と種類の会員希望者が集まった。
その数は優に100人を超え、山元を初めとする月のクラスメート達の度肝を‥‥
抜く事はなかった。何故なら、あの!夜神月のファンクラブなのだ。
それだけのファンが集まってもちっともおかしくない!
そして、それら希望者の事をさり気なく(学校関係者は覗く)月に聞いてみたところ、
月もしっかり覚えていたのには流石に‥‥いやいや、やっぱり驚かなかった。
記憶力抜群の月の事、それぐらいの人数覚えていても不思議じゃない!
と言うのが彼らの認識だったからである。
ただ数日後、ゲーセン帰りの山元と友人達の前に、
いきなり黒塗りベンツが停まり行く手を塞いだのには驚いた。
しかも、有無を言わせず車に押し込まれ、連れて行かれたのはヤクザの事務所ならぬ高級料亭。
そこで数人のいい年したオッサン達から『ぜひ私達もファンクラブに!』と、
豪華料理付き手土産付き土下座付きでお願いされて、
改めて自分達の友人幼馴染が、如何にモテルかに改めて気付かされた。
何と!いい年したオッサン達は警察のお偉いさんと、区議会議員だったのだ!!
警察のお偉いさんは刑事である父親の伝手だろうが、
議員とはいったい何処で!?

(議員さんの話によると、小学校の夏休みの自由研究で、
 『区議会のお仕事』というレポートを書くため単独取材を申し込んで来た月に、
 メロメロにされたとのことだった。
 後日月に確認したら、
 『あぁ、○○議員ね。親切で区政にも熱心な素敵なおじ様だったよ』
 との返事を貰えた。いったい何処まで魔の手を伸ばしているんだ!?月!!)

更に次の日!街中で見るからにその道の人と判る男達に囲まれた時は、
もう何が来ても驚かないぞ!と、山元を初めとする友人達は開き直った。
豪華料亭ではなくケバケバしいキャバクラに連れ込まれ、
豪華料理付き手土産付き土下座付き、ついでに色っぽいお姉さん付きで頼まれたのは、
やっぱり『俺達もファンクラブに入れてくれ!』だった。
いったい何時何処でヤクザなんかタラシこんだんだ!?月ォォォォッ!!
(思いっきり心の叫びin山元&友人一同)
何でも、兄貴分への上納金が払えず、切羽詰まって中学生をカツアゲしようとしたチンピラを、
月が軽く一本背負いで伸したのが始まりだったらしい。
ついでに父親直伝の捕縛術で縛り上げたうえで身の上相談(中学生相手にそれは‥‥)、
金の作り方が下手すぎる!と説教され(だから、中学生に言われるのは‥‥)、
一攫千金を狙うにしてももっと安全な方法があるだろう!と怒鳴られ(月‥‥)、
更に『僕が手本を見せてやる!』とまで言われ(‥‥‥‥えっと‥‥)、
某平和島の公営ギャンブル場へ連れて行かれ、月に言われるまま券を買ったのだとか。

(競艇場内では従兄弟に連れて来て貰った子供を無邪気に演じながら、
 秘かに耳を傍立て新聞その他、ラジオ情報ネット情報も仕入れる月の様子に、
 チンピラは『勝利の女神』を見た!と言う‥‥)

そこでそこそこ儲けて、それを全部!(ここがミソ)上納金に当て難を逃れたチンピラは、
もう何を言われずとも月のファンになっていた。
チビで小生意気で喧嘩が強く、口も頭も回って金儲けが上手いのに金に執着しない、
とどめに!笑顔で『兄貴にド突かれなくて良かったね』と言われて堕ちない男はいない!!
その後、月の指導を受けていっぱしの予想屋(もちろん裏)になったチンピラは、
月に言われた通り身の程をわきまえつつ細々と上納金を稼いでいたという。
そこから色々あって(何が色々!?)月とチンピラの兄貴が御対面。
父親のデーター(こっそり見たのか?)でそのヤクザの事を知っていた月は、
慌てず騒がず笑顔で挨拶。

『僕、ヤクザは嫌いですけど、人様の迷惑にさえならなければ、
 ヤクザも生きてていいと思います(^O^)』

なんて恐ろしい事をペロンと言ったとか何とか!(心臓が止まる!!)
その気風の良さと可愛らしさに(何時もの夜神家母コーディネイト)大笑いした兄貴は、
以来、月と時々会っていたのだとか。
刑事の息子とヤクザの逢引!?え?違う?じゃぁ、援交?それも違う!?
言うなれば『ベニスに死す』の老作曲家と美少年‥‥って、なお悪いわっ!!!!
まぁ、そんな事もあったりして、入学式が始まる一週間前にはサイト活動は始まっていた。
以来、ようような交流が会員達の間でなされたのだが、
時々開催される名誉会長様の特別企画は会員達注目の的だった。
春には制服祭り。夏には浴衣祭り。秋には文化祭のメイドコスプレ!
そう、名誉会長の、親友の地位を利用した、月着飾りピンナップ!!
早々にファンクラブの存在を姉妹二人に知られてしまった会長が、
開き直って家族を巻き込み、あの手この手で親友をノセまくったのだ。

(意外に押しに弱く、やるとなると真剣に!そして結構ノリがいい月の性格を、
 良く掴んでいるのは流石に親友と、誉めるべきか)

夜神家への協力も山元家母を通じて無事取り付け(むしろ推奨された)、
ファンクラブ結成半年後には、会員数は150人を突破していた。
さてそうなると、こちらもノリのいい名誉会長としては、
来たるクリスマスに今まで以上の企画を考えない訳にはいかない。

「やっぱりこれしかないな」

凝った企画は来年再来年やればいい。先ずはシンプルな企画から!

「しかし、流石の月もこれは着てくれまい‥‥」

何だか最近腹黒くなってしまった山元家長男。
親友で遊んでいなくもないが、イベンターとして目覚めつつある彼としては、
会員の期待に応えるのは己の義務だと思っている。

「許せ!月っ!!!」

そう言いながら、実にいい笑顔でベッドに広げた数着のコスプレ衣装を掻き集め、

「姉貴~~!実は相談があるんだけど~~~!」

スキップしながら隣の姉その2の部屋へと向かうのだった。

 


「え?サンタのバイト?」

その日、親友に呼ばれ山元家へとやって来た月は、
山元家姉その1に簡単なブッシュドノエルの作り方を指導しながら、
何やらすまなそうに話を切り出した親友に視線だけ向けてそう聞き返した。

「私の友達がね、イベント会社やってるんだけど、
 人手が足りなくって困ってるのよ」
「一美さんのお友達?イベント会社って、あぁ、クリスマス企画ですか」
「そう。会社といっても凄く小さくて、色んなところのパーティーに呼ばれて、
 盛り上げ役をやるだけなんだけどね」
「サンタの格好とかして?」
「そうそう。でね、幾つか掛け持ちするんだけど、ブッキングがあったらしくって、
 どうしても一ヶ所調節できないパーティーが出ちゃったんですって。
 それで、当日限りのバイトを探してるんだって」

危なっかしい手つきで平たいスポンジにクリームを塗りながら、
山元家長女が計画など微塵も感じさせない笑顔でそうのたまう。
それを何の疑いもなく聞いていた月は『大変ですねぇ』と無邪気に答えている。

「あ、クリーム塗ったらフルーツを並べてください」
「これね‥‥それでね、行くのは一般家庭で、
 ちょうどクリスマスが誕生日の子のパーティなんだって。
 そこで合図と同時に歌を歌いながら出て行って、子供にプレゼントを渡して退場。
 一番簡単な仕事なんだって」
「へぇ、そうですか。あ、巻くのは僕がやりますね」
「その子、6歳の一人っ子の女の子で、とっても楽しみにしてるんですって、サンタさん」
「信じてるんですね、サンタさんの事」
「そうなの。可愛いでしょう?」

ニッコリ笑う姉にニッコリ笑い返しながらもスポンジを巻く手は止まらない。
実に手慣れたものである、夜神月15歳、男子高校生。
しかし、見た目はその表現を若干裏切っている。
リラックマエプロンにリラックマスリッパ、リラックマバンダナを巻いた姿は、
乙メンと言っても過言ではない。
しかし、本人の名誉のために言っておくが、彼は決して乙メンではない。
単に玄関口にそれしかなかったからそれを履いただけだし、
手渡されたから装着しただけである。そこになんの衒いも恥じらいも喜びもなかった。
要するに未だ未だ無頓着なのである、自分の恰好に。

「でね?私にそのバイトやってくれないかって言われたの」
「そうなんですか」
「でも、天使役とトナカイ役とサンタ役の、計4人要るのよね」
「へぇ」

そう言ってる間にスポンジはクルクル綺麗に切り株型に巻かれ、
後はクリームを塗りたくるだけとなった。

「でねでね、月君も手伝ってくれないかなぁ」
「その日は僕の家でもパ‥‥」
「粧裕ちゃんは友達の家に招待されたって言ってたぞ」
「え?」
「お母様は私と『氷○き○しクリスマスディナーショー』に行く予定よぉ」
「は?」

何事?と月が顔を上げれば、ソファに座ってTVを見ている親友の隣で、
山元家母が実にいい笑顔でこちらを見ていた。
その手に握られている赤い物は某有名キャラクターのコスチュームだと、
賢い月少年には直ぐ判った。
ついでに山元家母の手には某アイドル演歌歌手の顔入り団扇が握られている。
この季節に団扇って‥‥と、思わなくもないが、
親友の母親にそんな失礼な事は思っても言わない顔にも出さない優等生、夜神月。

「夜神家クリスマスパーティは今年は中止だな」
「いや、だからどうしてそれをお前から聞かなくちゃいけないんだ?山元」
「偶然だな」
「偶然よ」
「偶然だわ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」

何となく釈然としないまま、相変わらず危なっかしい長女の手付きをチェックする月。

「そう言う事だから、月君、宜しくね、サンタ役」
「は?」
「私と二葉は天使役をやるから」
「俺、トナカイ役」
「待て、山元。お前がトナカイ役なのはいい。何で僕がサンタ?
 僕の何処がメタボ体系だと?ってか、僕はそのバイトやるとは‥‥」
「あら、6歳の女の子の年に一度の楽しみを奪っちゃうの?月君」
「いえ、そんな事は言ってません。ただ、僕の体系ではサンタ役は無理だと‥‥」
「じゃぁ、天使役でもいいわよ?」
「え?一美さんがサンタ役?」
「私がトナカイで、サンタは愚弟でもいいわね」

よしっ!乗って来た!!と、心の中でガッツポーズをとる山元家一同。

「ちなみに、天使の衣装はこれよ~♪」
「!?」

そこですかさず山元が話に出た天使の衣装をバッと広げる。

「そ、そ、それは‥‥!」
「素敵でしょう?きっと月君に似合うわよ~」
「似合いません!」

それは全身真っ白の、レースとフリルとリボンがこれでもか!と言うほど付いた、
アイドル真っ青なミニスカドレスだった。むしろ、バレエのチュチュに似てなくもない。
その証拠に、付属品の白いストッキングと白のバレエシューズがテーブルに乗っている。

「あらどうして~?背中に小さな白い羽付けて、手に魔法のステッキ持って、
 カワイイ魔女っ子の出来上がり~~~~♪」
「天使は魔女っ子じゃありません、小母さん」
「以前教会の聖歌隊で歌った時、白のスモッグに天使の羽を付けてたって聞いたぞ」
「あれは母さんが悪乗りしたんだ!僕の意思じゃない!!」
「じゃぁ、やっぱりサンタ‥‥」
「トナカイは?」
「あるけど、月の身長じゃなぁ‥‥」
「ぐっ‥‥」
「それに予定じゃ、ソリが無いからトナカイに跨るらしいぞ、サンタが」
「そ、それは‥‥!」

弱冠女王様気質のある月の事、それを聞いてまでトナカイ役をやりたいと言う筈がない。

「判った‥‥サンタ役でいい」
「「「(おっしゃ~~~!!!)」」」

「じゃぁ、さっそくリハーサルと行きましょう。
 二葉、二葉!ちょっと降りてらっしゃいな~~~!」
「え?え?」
「そう言う事で、ケーキも完成したし、私は天使コス着るわね~」
「未だ完成してな‥‥」
「ほらほら、ケーキは冷蔵庫に入れて。月はこっちに来てサンタの服を着る」
「や、山元‥‥ま、待てっ!」
「早くしないと、着替えの手伝いされちまうぞ、姉貴達に」
「!」

夏の浴衣騒動で懲りたのだろう。
その一言で月は慌ててリラックマ一式脱ぎ捨てると、
リビングのドアを閉め、山元と二人でクリスマス用コスチュームに着替え始めた。

「!な、何だこれは~~~~~!!」
「まぁまぁ、抑えて抑えて」
「こ、こ、これの何処がサンタだ~~~~!!!」
「仕方ないだろ?これがユーザーの希望なんだから」
「は!?これが?希望!?こんな恰好したサンタが何処にいる!?」
「色は赤。白のボア付き。黒のブーツ。帽子だってプレゼントを入れた大袋もある。
 ほら、何処からどう見ても立派なサンタじゃないか」
「何処がだ!僕は降りた、もう脱ぐ!」
「「「月君、準備できた~~~~~~???」」」
「!」

そして、一旦サンタの衣装は着たものの、
その余りに大胆にカスタマイズされたデザインに顔を真っ赤にして怒りだした月。

「ま、ま、待って‥‥今、脱ぐ‥‥」
「あら~、可愛いじゃない、月君」
「きゃぁ~~~!思った以上に似合うわぁ~~~!」
「おほほほほ、女の子も喜ぶわね」
「(何処が!?)」

しかし、無情にもリビングのドアはガラリと開き、天使コスの山元家姉妹と、
カメラにビデオを持った山元家母が現れたのだった。
そして、茫然自失の月を他所にキャッキャ言いながら写真を撮り出したのだった。

「は~い、月君、こっち向いて~」
「ちょっと、愚弟!突っ立ってないで馬になりなさい、馬に」
「馬じゃなくてトナカイだっつ~の」
「似たようなもんでしょ。そ~ら、雪よ~~~!」

チュチュ仕様の天使の恰好(天使のワッカと天使の羽付き)で、
ザルに入れた紙吹雪の雪を撒き散らす山元家姉妹。
全身トナカイの着ぐるみに赤鼻を付けて、早々に四つん這いになる山元家長男。
プライドはないのか、プライドは!

「‥‥くっ‥‥やってやろうじゃないか‥‥覚悟しろよ、山元」

握り拳に眉間の皺。苦悩のポーズもなかなかサマになっているサンタ月。
一瞬、そんな月の日頃は涼やかな目がキラリと光り、チョッピリ残酷な色が輝いた。

「(うぉっ!来た来た、女王様モード!!)よ~し、どんと来い!」

 


「メリークリスマ~~~~~ス!」

その一言の元、四肢に力を入れ踏ん張った山元の背中にドンという衝撃が走る。
サンタコスの月が優雅に、そして高飛車に腰を下ろしたのだ。
流石に馬のように跨りはしなかったが、その絵面はどう見ても人間椅子‥‥ゲフンゲフン。
だって、そうだろう。
なにせ月の素晴らしくカスタマイズされたサンタコスは、
ラメ入り赤のタンクトップに短パンという、実に派手派手しい物なのだから。
しかも、腰に巻いたベルトはどう見ても鞭にしか見えない。
山元トナカイの背中に堂々と腰かけ高々と足を組んで。
その足を覆うのは、黒の膝上ピンヒールブーツ、拍車付き。
被ったサンタの帽子は流石にカスタマイズできなかったようだが、
キラキラ光るハートのブローチは矢で射抜かれている。
更に、羽織った赤のロングコートは白いボアの縁取りが無かったらまるっきりマントだ。
いや、あっても立派にマントだろう。赤の女王のマントだ。
月が脱ぎたくなる訳である。
これの何処が6歳の女の子のパーティー用コスなのか!?
何処からどう見ても、オヤジ仕様ではないか!!

「そ~ら、ルドルフ!走れ走れ~っ!」
「あはははは!いいわよぉ、月く~ん!素敵ぃ~~~~!」
「月君を落としたら、大掃除は全部あんたにやらせるからね~~~!」
「おほほほほ!そうそう、月君を落としたら、お年玉はなしよ~~~~~!」
「(好きかって言うな~~~~~~(>_<))ヒヒ~~~ン!」
「うふふ、ルドルフったら、トナカイのくせに馬の真似なんかしちゃって‥‥
 ここはひとつ、お仕置きかなぁ?」
「「「キャ~~~!やってやってぇ~~~!!月く~~~ん!!!」」」
「(し、しまったぁ‥‥ラ、月が完全女王様に‥‥!)」

そうして紙吹雪が舞う中、つんのめったトナカイが山元家のリビングにへたり込む寸前、
その背から素早く飛びのいたサンタ様が、
ピンヒールブーツのおみ足を高々と蹴り上げたのだった。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「素敵よ~~~~~!!!月く~~~~~~~~~ん!!!!!!」」」

 


その後何があったかは山元トナカイは黙して語らない。
ただ『関東お月見会』サイトに12月24日に限りupされた、
クリスマス特別企画の映像の数々がそれを想像させてくれるだろう。
夜景や暖炉のある部屋、ベッドルーム、クリスマスツリーや某ネズミーランド等々。
様々な合成背景をバックに『メリークリスマス!』と笑顔を振りまく月サンタ。
そのコスチュームは大胆にしてキュート。
赤鼻のトナカイの曲をバックにちょっとダンスまで披露してくれるのだから、
会員達が狂喜乱舞した事は言うまでもない。
しかし、そんな彼らに山元トナカイの苦労は判らない。
ただ、裏ページのクイズ式パスワードルームに入る事が出来た会員だけが、
その一端を垣間見る事が出来ただろう。
だがしかし!
その苦労を苦労とは、決して誰にも思って貰えなかった事をここに記しておく。
何故なら、馬(見た目はトナカイ)になってサンタ月を乗‥‥あ~、ごほんごほん。
ベルトの鞭で着ぐるみの尻を月にたた‥‥ハックション!
大の字にくたばった所をブーツのピンヒールで男の大事なと‥‥ゲフゲフゲフ‥‥!
まぁ、そんな羨ましい動画が延々流れるのだから思って貰える筈が無いのだ。
ついでに、その時の月は実に無邪気に笑っていた事を付け加えておこう。
月にとってそれは、まるっきりプロレスごっこのノリだったのである。
気持はヒール、悪役レスラーだ。
だって、山元家女性陣、そして月が大満足して全てを撤収したのは、
未だ昼の3時だったのだから。

(途中お昼に宅配ピザをみんなで食べました。
 ただし、その時も山元トナカイは着ぐるみを着ていたので、
 ありがたくも月に全部食べさせて貰ったのでした)

みんなのアイドル夜神月は見た目はどうでも、中身は天使です!

(会員一同の声)

 


そして12月25日当日、
サイトのチャットは熱く熱く!あ・つ・く!!盛り上がった!!!
まさに、文化祭のメイドコスを凌ぐ盛り上がりようだった!!!!

『あれ、やったか?』
『やったやった!まっさきにやった!』
『あれって何だ?』
『うわっ、お前知らないのか?』
『バカだなぁ、裏ページに更に裏があったの気付かなかったのか?』
『何ぃぃぃ!?そんな物があったのかぁ!?』
『何だよ、それ?何があったんだ?』
『ほら、温泉とかによくあるだろ?浦島太郎だとか、水戸黄門だとか、
 大きな立て看板に童話とか小説の有名なシーンの絵が描いてあって、
 顔のとこだけ穴が空いてて、そこから顔出して記念写真撮るってやつ』
『あれと同じフリーコラボコーナーがあったんだぜ』
『何ィィィィィぃぃッ!?』
『月サンタの乗せた馬、じゃなかったトナカイの顔部分に、
 自分の顔写真を嵌められるようになってたんだよ』
『エロ厳禁のお月見会にしては出血大サービスの企画だったな』
『ダウンロードも保存も出来なかったけど、何とか写メで撮影しちゃった、俺』
『気付かなかった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!』
『またやってくれないかな~~~』

そんなラッキーアンラッキー取り交ぜたチャットが一日中続いていた。

 


関東お月見会。
それは夜神月を讃える男達の熱きファンクラブ。
そして、癒しの一時を提供する場。
ちょっと、いや、かなりアイドルサイト化しているけれど、
彼らに疾しい気持ちはない。
彼らは何時の日か自分達のアイドルが、
日本の未来を担う大人物になると本気で信じているのだから。
それがまぁ、天使様のままであるか、女王様にシフトアップするかは、
夜神月が秘めた大いなる可能性の問題でぇ‥‥‥
まぁ、ちょっと色々あって新世界の神になったりしするかもしれないけれどぉ、
概ね、日本は平和と言う事でいいのではないだろうかぁ。

お遊びのためなら愚息(愚弟)の恥も外聞も捨てる山元家に拍手!

 

 

 

 ※ルドルフは有名な人形アニメに登場する赤鼻トナカイの名前です。
 月少年の3大タブーは「スカート」「フリル」「リボン」です。
 それさえ外していれば、月少年には女装と認識されません(笑)
 ちなみに嘘バイトは『仕事がキャンセルになった』と、
 更に嘘を付いて有耶無耶にされました。
 

 

 

 

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