デスノ的ハロウィーン(2008)

その一  Lの場合

L「trick or treat!」
月「‥‥何の真似だ?竜崎。そのカエルの王子様の着ぐるみは‥‥
  それなりに可愛いと思うが、台詞の方は全くもってちっとも頂けないな」
L「ふふふ、流石は私の愛する月君。
  これがカエルの着ぐるみは着ぐるみでも『王子』の着ぐるみだとよく判りましたね。
  今日はハロウィーンなので、伝統に乗っ取り合い言葉を言ってみました。
  さぁ、月君。悪戯されたくなかったら私にお菓子をくれるのです!」
月「お前と四六時中手錠で繋がれこのビルから一歩も外に出られないというのに、
  どうやったら僕はお菓子を買いに行けるのかな?」
L「おや、そうでしたね。では諦めて私に悪戯されなさい」
月「やっぱりそうきたか‥‥
  どうりでお前の手の届く範囲に必ずあったはずのお菓子が今日に限ってない訳だ」
L「フッフッフ、これも全て!愛する月君に公然と悪戯できるチャンスを逃さないため!
  今、このLビルにお菓子と名の付く物は飴玉一つ、ガムの一枚だってありません!
  という事は、貴方は私にお菓子を与える事が出来ず、悪戯されるしかないのです!」
月「お前の企みはよ~く判った。だがその前に、ちょっと僕に付き合ってくれないかな?」
L「相変わらず往生際が悪いですね。でも、その最後まで諦めない姿勢も好きですよ。
  さて、私は何処へお付き合いすれば宜しいのですか?」
月「何、手間は取らせない、そこのキッチンまでだから」
L「(キッチン?ま、まさか私にこっそり隠れてお菓子を用意してた、何て事‥‥
   いえいえ、そんなはずは‥‥だって、私が傍にいてずっと見張っていたのです。
   そんな素振りは全くちっともありませんでした‥‥大丈夫な、はず‥‥です!)
  わ、判りました」
月「ふふふ、素直な竜崎は好きだよ。
  いつもこんな風ならお前の面倒を看るのも楽なのにな。
  あぁ、あった、これだ」
L「冷蔵庫?冷蔵庫に何があるのですか?ケーキもプリンも全部処分したはずですが‥‥」
月「はい、竜崎。ご所望のお菓子だよ」
L「‥‥月君、これはアイスクリームです」
月「うん。だから、竜崎が欲しがったお菓子だってば」
L「残念ですがアイスクリームはアイスクリームであってお菓子ではありません」
月「僕にとっては充分お菓子で通用するんだけど、
  食い意地の張ってるお前ならそう言うだろうと思ってたよ。
  ところで竜崎、僕の国籍は何処かな?」
L「?日本、ですが?」
月「そうだ、日本だ。という事は、僕は日本人で先祖代々仏教徒で、
  当然ながら万聖祭なんて習慣はない。
  近年街中で見かける光景はお菓子会社の戦略にすぎない。
  だが、せっかくお前が王冠付きカエルの着ぐるみを着てまで楽しんでるのに、
  それを問答無用で叩き潰すほど僕は冷酷ではないつもりだ。
  だからこうして、お前の戯言にも仕方なくではあるが付き合ってやっている。
  という事で、僕の堪忍袋の緒が切れないうちにこのお菓子を受け取れ、竜崎」
L「言葉の端々にそこはかとない怒りを感じなくもないのですが、
  この後日付が変わった瞬間恐ろしい報復が待っているような気もしないではないのですが、
  月君、敢えて言います。
  私の認識ではアイスクリームはおやつになりはしても、
  ハロウィン用のお菓子にはなりません。
  何度でも言います。アイスクリームはアイスクリームです!」
月「うふふふふ、だったら僕も何度でも言うよ。僕は日本人で仏教徒だ。
  よって、僕は僕の判断基準で万聖祭を処理する。
  さぁ、このアイスクリームを有り難く拝み倒して受け取れ!」
L「だから!アイスクリームは‥‥」
月「竜崎、お前、余りに嬉しすぎてネジがいつも以上に抜け落ちてるな?
  世界の切り札、名探偵『L』の名が泣くぞ。
  アイスクリームはな、日本では『氷菓子』って言うんだ」
L「(し、しまったぁぁぁっ!!忘れてたぁぁぁぁぁぁっ!!!!)」
月「(こんな事もあろうかと、父さんにこっそり買って来て貰ってたのさ。
   お前は冷蔵庫は漁っても、冷凍庫は余程の事がない限り漁らないからな。
   そこは既に要チェック済だ。
   そして、日頃のお前の言動からアイスクリームはお菓子ではない、
   と考えている事も判っていた。ふふふ、僕の計画的勝利だ!)
  さ、ちゃんとお菓子は渡したからな。悪戯はなしだぞ。
  駄々を捏ねて無理やり悪戯しようとしたら、向こう一週間おやつ抜き!
  判ったな?竜崎」
L「(キ、キラです、キラがいます‥‥
   私の月君がまたキラに戻ってしまいましたぁぁ‥‥っ!!!)
  あんまりです、月く~~~ん!!」
月「うふふふふふふふ‥‥何度言えば判るのかなぁ?僕はキラじゃないって‥‥」


松「流石は月君!先見の明があるよ!」
父「よくやった!月ォォォッ!!」

名探偵L、異文化交流に失敗す。

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

その二  メロとニアの場合


メ「trick or treat!」
月「わぁ、吸血鬼だね、メロ。金髪おかっぱに黒のシルクハット、
  黒いマントに赤のリボンタイがとっても似合ってるよ、可愛いねぇ」
メ「か、可愛いなんて言われても嬉しくねぇ!俺は男だ!!
  それより、悪戯されたくなかったら俺にチョコを寄こせ!」
月「ピンポイントにお菓子を絞って来る所がメロらしくていいね。
  その欲望に忠実な所は嫌いじゃないよ、メロ。
  はい、メロ。食べた後はちゃんと歯を磨いて寝るんだよ」
メ「わ~~~い!チョコの詰め合わせだぁ!ありがとう、月!!」
月「どういたしまして、可愛い吸血鬼君」
メ「だから!可愛いってのは余計だっつ~の!!」
月「仕方ないよ、管理人の贔屓だから」
ニ「‥‥trick or treat(ぼそっ)」
月「おや、ニアもいたのか?相変わらず竜崎に輪をかけてオタクっぽいね。
  その格好は何かな?スケアクロウマン?
  ハハハ、おもちゃの修理屋ほどお前に似合わない職業はないな」
メ「(月‥‥ニア相手だと容赦ねぇ‥‥俺、管理人に愛されてて良かったぁ)」
ニ「キラ‥‥trick or treat、と言いたい所ですが、
  貴方が私のためにお菓子を用意しているとはとてもじゃないですが思えないので、
  取引ははなから問題外で遠慮なく悪戯させていただき‥‥」
月「待て、ニア。誰がお菓子を用意してないと言った。僕はえこ贔屓は嫌いなんだ。
  お前の分のお菓子もちゃんと用意している。
  さぁ、有り難く拝み倒して受け取れ!」
ニ「‥‥‥‥‥‥‥果てしなく、限りなく、絶対尚且つ確実に悪意を感じます」
月「そうか、お前は僕が作った物は食べてくれないのか‥‥毒なんて入れてないのに」
メ「ニア!てめぇ、なに月泣かしてんだよ!
  月は毎日俺やお前の相手で大変なんだぞ!
  しかも、あの無能な日本の刑事達にも指示を出さないといけないし!
  Xキラにも指示を出さないといけないんだ!
  そんな月がわざわざお前用のお菓子を作ってくれたんだ!
  マジで、有り難く拝み倒し恭しく頂け!!」
ニ「メロ‥‥口の周りをチョコだらけにして言っても忌々しいだけです。
  どうやら毒は入っていないようですね」
月「当たり前だ。そんな姑息な手でお前を殺してもちっとも楽しくないからな」
ニ「真っ黒なキラ発言ありがとうございます。ますます愛が湧きました。
  では、一応貴方が用意したと言うお菓子を頂きましょうか」
月「初めから素直に受け取ればいいのに。メロと違ってちっとも可愛くない」
ニ「私も一応男なので、可愛いと言われても嬉しくありません。
  で?これがそのお菓子ですか?何ですか、これ?キャンディ?」
月「落雁だ。日本のキャンディと言えなくもない」
メ「あ!俺、これ知ってる!食べた事あるぞ!シュガーを固めて作ったお菓子だろ?」
ニ「砂糖?固めた?」
月「日本の高級シュガー『和三盆』を型に入れて固めた日本伝統のお菓子だ」
メ「甘くて美味しいんだよな!口溶けも雪みたいで最高なんだ!!」
ニ「それは確かにキャンディですね」
月「メロも一つ食べてみるか?」
ニ「あっ!私の‥‥!」
メ「ワ~イ!食べる食べるぅ!‥‥‥ん、甘~~~い!!美味し~い、俺、幸せぇ!!」
ニ「(クッ‥‥メロめ!それはキラが私の為に用意したお菓子です!)
  後学のために私も一つ‥‥本当だ、甘い‥‥‥ん?ブホッ!!!」
メ「汚ねぇっ!何吐き出してんだよ!せっかく月がくれたお菓子なのに!!」
ニ「‥‥しょ、しょ‥‥」
メ「何だって?」
ニ「しょっぱい!何ですか、これ!?塩の塊じゃないですか!!」
月「ハーハッハッハッ!引っかかったな、ニア!
  それは岩塩を和三盆でコーティングした特製落雁だ!
  あ、ちなみに『塩キャラメル』の一種と言う事でそれも立派なお菓子に分類される!
  取引は成立だ!よって、お前の悪戯は認めないぞ!」
ニ「クッ‥‥こんな手に引っかかるなんて、私としたことが‥‥
  それにしてもメロに渡した分は‥‥」
メ「俺が食べたのは中まで全部しっかりシュガーだったぞ?」
月「それは簡単なトリックだ。メロに食べさせる物だけ型を変えておいたんだ」
ニ「や、やられました‥‥というか、そんな事より!
  み、水!喉が焼ける~~~!!」
月「計画通り!!」
メ「ニア‥‥哀れな‥‥」

またしても異文化交流ならず。

 

 

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