あぁ、憧れのジューンブライド!

その1


「はぁ‥‥いいですよねぇ、これ」
「何がですか?竜崎」

その日、キラ捜査本部が居座っているホテルの某一室で、
世界の切り札こと迷(?)探偵Lがポツリと呟いた。
それを聞きつけた能天気が売り(?)の松田が何にも考えず問い質せば、

「これなんですけどね」

見た目は全くそうは見えないが、いそいそと、かつ嬉しそうにLがPC画面を指差す。
いつもなら『松田さんには関係ありません』と、けんもほろろの扱いなのに、何故?
常ならざらぬ様子に、どうした竜崎、腹でも壊したか?と、
他の捜査員が訝しんでいるのも気付かず、
松田はヘラヘラ笑いながら竜崎の指差すPC画面を覗き込んだ。

「えっと、これ。ミサミサですか?いい足してますねぇ」
「問題はそこではありません。松田さん、足フェチですか。
 絶対おっぱいフェチだと思ってましたが」

そこに映っていたのは今売り出し中のアイドル、ミサミサのドレスアップ姿。
真っ白フワフワ、真珠とお花、長~いベールはレース仕様。
それはどう見てもウエディングドレス。しかも超ミニ。

「ミサミサの足が問題じゃないとしたら‥‥あ、判った!」

それもそのはず、その映像は某結婚雑誌の表紙だったのだ。

「この高さ約2メートルのケーキですね!」

そして、セクシーなウエディングドレス姿のミサミサは、
手にしたナイフでケーキカットの真っ最中。

「ホテルに頼めば用意してくれるんじゃないですか?早速頼んできましょうか?僕」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

本人は気を利かせているつもりだ。やった、竜崎に誉めてもらえるぞ、と思っている。
しかし、当の竜崎こと超絶甘党探偵Lの機嫌は急速に下降していた。
無表情なくせにそればかりははっきりと判る。纏っているオーラが全然違う!
このままでは松田がいつもどおりメタクソに言われるのは目に見えていた。
だが、夜神総一郎を初めとする他の捜査員達にはなす術もない。
こんな風になった竜崎を止められるのはただ一人。
逃げろ松田!今ならまだ間に合う!
そんな彼らの心中を他所に、竜崎がゆっくりと口を開こうとした時、

『竜崎、月様がお見えです。今直ぐお通しして宜しいですか?』
「もちろんです!ワタリ!!」

救いの神が現れた。

 

「やぁ、竜崎。相変わらず面白い顔に、面白い格好だな」
「月君!」

それは夜神総一郎の長男にして現役東大生の夜神月。
箸が転んでも可笑しいピッチピチの18歳美少年。
もっと詳しく言うなら、
頭脳明晰眉目秀麗才色兼備良妻賢母!天はニ物も三物も与える!!
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花!!!
えぇぇと、他には‥‥‥‥

「マイスィートハニー!運命の恋人!将来のパートナー!未来の奥さん、一生の連れ合いです!」

アハハハ、いつにも増して図々しさ全開だな、竜崎。
誉めてもらって嬉しいです。私、月君のためなら幾らでも頑張れます!
何でしたら今晩、私の絶倫振りをご披露‥‥‥
竜崎ぃぃぃぃぃ‥‥‥!!
あぁぁ、お義父さん、拳銃は持ち込み禁止のはずなのに!
き、局長!落ち着いてください!落ち着いてっ!!
ワタリさん、父さんに銃はダメだって言ったはずですよ。
次からはせめてメリケンサックにして下さい。
判りました、月様。ついでにスタンガンもご用意いたしましょうか?
ありがとうワタリさん。頼りにしてます。でも、カエルにはトリモチで十分だと思います。
畏まりました。
ラ、月君?何ですか?どうしてそんなにワタリと見詰め合ってるんですか?
それにワタリも‥‥何時の間に月君とそんなに仲良くなったんですか?

(それはもう、将来のLの奥様ですから。今からお仕えするのは当たり前でございます)
(ワタリ‥‥!!月君を私の妻と認めてくれるんですね!)
(月様ほどL様に相応しいお方はいらっしゃいません)

「ならば!いざ!!既成事実を‥‥っ!!!」

目と目で交し合ったごく一部だけ麗しい主従関係の後、
感極まった竜崎が得意のカエル3段跳びで月に飛びかかる。

「ガッツク男は嫌いだよ」

しかし、そこは新世界の神。貞操の危機にも慌てず騒がず、
2段目ジャンプの途中で見事なストレートパンチを喰らわせ竜崎を叩き落してしまう。
パンチの入った先がかなりもっこりした股間だったのは、月の動体視力の賜物だろう。

 

僕、テニスのサーブの的当ては得意中の得意なんだ。狙った獲物は逃がさない、百発百中さ。
そ、そ、その、言い方‥‥ちょっと、おかしくない、ですか?ラ、月く、ん‥‥(>_<)
泡吹きながら言わないでくれる?ますますカエルに見えて来るから。
それに言っておくけど。この18年、落とせなかった男は一人もいないんだよね、僕。
さ、流石は私が見込んだだけの事はあります。奥さんが尋問捜査のプロだと私の仕事も捗ります。
もう復活?フフフ‥‥竜崎、僕、まだお前のプロポーズにYESって言ってないんだけど。
竜崎!貴様、何時の間に!!??
局長~~!だから血圧が上がりますってば~~~!ワタリさ~ん、何とかしてください~~!
畏まりました。こういう時はすかさずクロロフォルムをば。失礼、夜神様。

 

恐るべし、名探偵の執事。そんな物まで常備していたとは!?
ムググググ‥‥、ラ、月‥‥私の月がぁぁぁ‥‥カエル大王の毒牙にぃぃぃ‥‥
哀れ夜神父は模木と相沢に運ばれ別室へ。

「って、解説はいいですから本題に。月君、貴方にぜひ見ていただきたい物が!」

ワタリに腰をトントンしてもらったLが、
まだ何処かもたついた動きで自分のPC前へと月を連れて行く。

「何?キラ捜査で何か進展があった?」

もしそうなら一大事!
しかし、焦りは絶対面には出さず、真剣そのものの正義感溢れる好青年の顔で、
将来のLの奥様、いえいえパートナー、いえいえいえいえ新世界の神は、
竜崎が指し示すPCの前に座ったのでありました。

 

※何やらラヴコメの予感(ドキドキ)

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

その2


「竜崎‥‥」
「はい、なんでしょう。愛する月君」
「僕に見せたいものって、これ?」
「そうです」
「間違いありませんよ。月君が来る前から、竜崎、そのサイトずっと見てましたから」
「松田さん‥‥お茶、煎れて貰っていいですか?僕、松田さんが煎れた紅茶が飲みたいな」
「月君!判った、直ぐ煎れて来る!」
「うんっっっと、熱いのくをお願いしますね。もう、煮えたぎるくらいに熱いのを」

微かに小首を傾げ、ほんのり頬を薔薇色に染め、
ハニカミ王子など足下にも及ばぬ可憐さでおねだりする神。
流石は百発百中、落ちない男はない!と豪語しただけの事はある。
脳天気単純松田はそれだけでメロンメロンだ。

「判った!石鍋で煎れるから!」

いったいどんな紅茶を煎れる気だ?松田。
せっかく煎れても、月に飲む気は無いぞ。
どう考えてもLの頭の上で引っ繰り返されるのがオチだろ。
元から何も考えない松田は、月のお願いに何の疑問も持たず、
早速石鍋を買いにホテルの部屋を飛び出して行った。
そうか、そっちが目的か。さすがは神!労せずしてウザイおバカを追っ払ったぞ!!

「月君、松田如きに貴方の笑顔は勿体無さ過ぎます。減ります、穢れます」
「フフフ、カエルにも勿体無いって良く言われるよ」
「当然ですね。爬虫類に貴方の美しさが理解できようはずがありません」

どうやら本人、自分の事を言われていると気付いていないようだ。

「ところで、竜崎。これの事なんだけど」
「はい」
「お前、僕を何だと思ってるんだ?」
「私の奥さ‥‥イ、イヒャイレフ、ハイフォフ~ン‥‥」
「ん~?この口かなぁ、今、僕が一番!嫌いな冗談を言おうとしたのは」

PC前のいつもの席に(密かに竜崎がラヴチェアーと呼んでいる)仲良く並んで腰掛ける二人。
一人が一人の両頬をハムスターの頬袋よろしくムリヤリ左右に引っ張っているけれど、
加害者側の笑顔は華のように可憐(目はちっとも笑ってないが)で、
被害者側もデレデレに笑み崩れている(涙目だけど)から、やっぱり仲良しなのだろう。

「このサイトって、桂由美のサイトだよね」
「はい」
「しかも、そこのオーダーメイドの予約フォームっていったら、
 当然、ウェディングドレスの予約だよね」
「はいっ!月君のお好きなデザインを選んでください!!」
「フフフ‥‥やっぱり着せたいんだ、僕に」
「はいぃぃっ!私との結婚式にぜひっ!!
 白無垢も捨て難いのですが、露出度の点から言うとやはりドレスの方が‥‥ゲフォッ!」
「僕に女装趣味はない!」

モデルのミサミサにもケーキにも着目せず、
ドンピシャ!ウエディングドレスに的を絞って来たのは、
流石は神と言うより、天才少年と言うより、愛のなせる技と言うべきなのか。
何だかんだ言って、二人は相性ピッタリのようだ。
しかし、花嫁(予定)のご機嫌は最悪のようだ。
花婿(未定)のヤニ下がった眉なし隈顔に、強烈な肘鉄を一発くれてやるくらい不機嫌なようだ。

「もちろん、それは判っています」
「判ってて、敢えて!言うとは、いい根性してるな!竜崎!!」
「嫁取りは根性が大事だと、ワタリに言われましたので」
「クッ、ワタリさん‥‥余計な事を」
「とにかく!月君の好みを優先していては話が進みません!」
「いや、ここは僕を優先すべきだろ!」

‥‥‥あのぉ~、そのぉ~‥‥ちょっとお尋ねしますが、神。先程から貴方の発言、
『カエルとの結婚』を肯定しているように聞こえるのは気のせいでしょうか?
結婚するのは構わないし、嫁になるのも構わないけど、ドレスを着るのだけは嫌だ!
と、言ってらっしゃるように聞こえ‥‥‥あ~、気のせいですね、はい。

「結婚式は花嫁にとって一生に一度の晴れ舞台!
美しい月君が着飾れば、その美しさは正に伝説となり、後世まで長く語り継がれることでしょう!
そして世紀の名探偵Lと世紀の殺人鬼キラの愛もまた永遠に語り‥‥‥‥
 イヒャイレス~~~、ラヒホク~~ン」
「男が美しいとか奇麗だとか言われても、ちっとも嬉しくないんだよ!
 それに、そんな言葉は聞き飽きてる!!
女装が似合いそうだとか、ぜひうちのメイド喫茶で働いてくれだとか!
ピンクのナース服で膝枕してくれだとか!!
特にボンテージに鞭のクリスマスプレゼントなんかは、ほとほと!ウンザリなんだ!!!」

月の怒りに任せた爆弾発言に怒るどころか鼻血を出してしまった情けない探偵は、
めくるめくコスプレ世界を、その灰色の脳細胞をめ一杯使って展開させた。
イメクラと紙一重だとは、可哀相なので言わないでおこう。

「確かに僕は高校入学の時、2月生まれという事もあり身長が163cmしかなかった。
自分で言うのもなんだが、女の子にしか見えなかったよ!」
「高校生の月君‥‥」
「あぁっ、竜崎!また鼻血の量が増えてる!いい加減妄想するのは止めろ!!
とにかくだ、それはもう3年も前の話で、今はこんなに育って身長も179cmになったんだ!
もう女装なんて、全然!!似合わないんだよ!!
今の身長でハイヒールなんか履いてみろ!
とんでもない大女の出来上がりだぞ!キモイだろうが!!」

自分で言わなくとも、いいじゃないですか、神。
大丈夫、婦女子の目にはフィルターがかかってますから、そんな常識通用しません。
というか、どうやら余り男らしく見えないのが、完璧な神の密かなコンプレックスだったようだ。
これは脈ありだぞ、某下僕。今からジムで鍛えておけば、神のハートはばっちりゲットだ。

「そこっ!某犬を変に煽らないでください!この話は第一部限定なんです!!」

これは失礼、名探偵殿。

「ででで、でも、月君。横には太れませんでしたよね。
 体重54キロって、かな~りスリムなんですけど。
あ、もしかして中学でテニスやめちゃったの、
高校に入って体格で負けるのが嫌だったからですか?
体重が軽いとパワーが出ませんからね。その頃から負けず嫌いだったんですね。可愛い。
でも、下手に筋肉つけると背が伸びなくなりますよ。
私としましては小さいのは嬉しいですが、筋肉はちょっと‥‥
月君は今のままでいいです。今のままでも充分美しいです。
それに月君、コルセットすればきっとウエスト70cm切りそうですよね。
それって、充分!華奢の部類に入りますよ」
「くっ‥‥!お、お前だって、体重50キロのくせにっ!」
「13巻のあれ、信じてたんですか?私が本当の事書くはずないじゃないですか。
体重から計算して薬の量とか測られては困りますからね」
「う、嘘だったのか!?あのプロフィール!!」
「本当は、70キロちょいあります」
「そうじゃなくて、誕生日!
 僕にだけこっそり、ハロウィーンと同じだって教えてくれたじゃないか!!」
「そそそ、それは本当です!あぁぁぁっ、泣かないでください、月君!!」
「竜崎の、バカ~~~~~!!!」

蜂蜜色の奇麗な瞳にジンワリと涙が浮かんだ瞬間、不覚にも世界の名探偵は、
今年何度目か忘れた愛の矢を、毛の生えた心臓にもろに受けてしまった。
それを射たのは勿論!
マイスィートハニー!運命の恋人!将来のパートナー!未来の奥さん!一生の連れ合い!!
キラ容疑者にして、愛する負けず嫌い夜神月だ。

「信じてたのに‥‥信じて、
 竜崎の誕生日にはワタリさんと一緒にこっそりお祝いしようと思ってたのに‥‥!」
「ラララ、月君!嬉しいです!!今から10月31日が待ち遠しいです!!」
「嘘なんだろ!?」
「違います!いえ、本当に10月31日が私の誕生日なんです!信じてください!!
何でしたら、ワタリに確かめてくださっても構いませんから!!」

ワッと泣き出し直ぐにでも部屋を飛び出して行こうとする月を胸に閉じ込め、
竜崎は必死で言い募った。

「愛してます、月君!
貴方の負けず嫌いな所も、やたらめったら笑顔を振り撒く八方美人な所も、
なかなか本心を言ってくれないへそ曲がりな所も、
あ、今はツンデレって言うんでしたっけ?
理論派のくせに、実は熱血で直ぐに手が出るやんちゃな所も、
女も男も手当たり次第虜にする魔性のくせに、実はまだチェリーちゃんな身持ちの固さも。
みんなみんな好きです!愛してます!!
貴方への疑いを解く事は出来ませんが、貴方がキラだろうとそうでなかろうと!
私は貴方を愛しています!私には貴方だけです!貴方なしではもう生きて行けません!」

ジタバタ暴れる力は始めこそ本気で、しかし何時しかか弱いものとなり、
それでも竜崎はしっかりと月を胸に抱き締めたまま「愛してます」と繰り返し言い続けた。


※おぉっ!愛の試練!

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

その3

「離せよ、バカ。痛いだろ」

暫くして月がポツリと呟いた。

「逃げませんか?」
「逃げないよ」
「信じてくれますか?」
「誕生日だけな」
「それでもいいです」
「バカ」
「はい。貴方の前だと、世界の切り札も形無しです」

まだ涙は乾いていないけれど、目元も紅く腫れているけれど、
竜崎を振り返った瞳は切なげに彼を求めている。

「竜崎‥‥」
「月君‥‥‥」

こ、これが所謂ツンデレですね!!!か、可愛いです、月君!!!!!

 

竜崎、せっかくのムードが台無しですから。
そこで鼻の下を伸ばさないでください。月様のお尻を揉まないでください。
というか、サイト責任者‥‥どうしてこのままラヴシーンに流れ込めないのですか(怒)。
え?ワ、ワタリさん?
そんなに、私の射撃の腕前をその身で確認なさりたいのですか?
それとも、Lの師匠たる私の、カポエラの技をその見に受けたいと‥‥
ヒィィィ‥‥は、話!話を進めましょう‥‥!

 

「愛しています、月君。結婚してください」
「僕は男だよ」
「関係ありません。男だろうと女だろうと、キラだろうと未来の刑事局長だろうと、
私は貴方を、夜神月を愛しているのです」
「キラから離れられないんだな」
「それは仕方ありません。私は貴方を愛する一人の男であると同時に、探偵Lでもあるのですから」
「いいよ。もう慣れたから」
「それは少し悲しいですね。判りました。
その代わりと言っては何ですが、貴方がキラだという証拠を掴んだ時は、
ICPOなんかに貴方を引き渡さず、この私が一生をかけて、更正させて見せます」
「バカ」
「言ったでしょう?貴方の前だと、世界の切り札も形無しだと」

クスンと涙ぐむ愛しい人を柔らかく抱き締めて、竜崎はそっと月の‥‥月の‥‥‥‥

 

エヘヘ、ほ、ほら、ラヴシーンです。ちゃんと、ラヴシーン入れましたよ、ワタリさん。
そこで押し倒さんか~い!!根性なし!!!
!こ、怖いです、ワタリさん。ってか、何してるんです?どう見てもデバガメに見えるんですが‥‥

 

「‥‥僕に女装、似合うと思う?竜崎と身長、変わんないよ?」
「女装だと思うから抵抗があるんです。ケジメの為の衣装だと思えばいいんです」
「ケジメ?」
「貴方が私だけのものになるケジメです」
「バカ」

 

行け!行くんです、L!そのまま押し倒して事に及べば、今流行の出来ちゃった婚成立です!!
あのぉ‥‥男同士ですから、それは無理なんじゃないかと‥‥
気持ちの問題です!なせばなる!世界のLに不可能はありません!!
いや、あるでしょう、いくら何でも‥‥

 

「もしかして、結婚式に憧れてる?竜崎」
「いえ、結婚式というより、ジューンブライドに憧れてるんです」
「どうして?何か思い出でも?」

愛しい恋人をお姫様抱っこでソファに運び、自分の膝の上に乗っけてイチャつく世界の名探偵。
隣の部屋へと続く扉の影からその様子をこっそり観察している執事といい、
息の合った主従かもしれない。

「頭のいい月君ですから、ジューンブライドの言い伝えはご存知でしょう?」
「あぁ、6月に結婚した花嫁は幸せになれるっていう、ヨーロッパの言い伝えだろう?」
「はい、Lは危険な仕事ですから、こんな私と結婚する人には少しでも縁起を担いで欲しくて‥‥」
「竜崎‥‥」
「かっこ悪いですね、私」
「そんな事無いよ」

見つめ合う瞳はホンワカハート型。
いいムードです!L!!もう一押しで堕ちます!!!

「フフッ、優しいんだな、竜崎」
「花嫁の幸せを願うのは、夫なら当然です」
「あ、でも‥‥」
「?何ですか?」

クリンと、リスのように愛くるしい琥珀の瞳でカエル顔の探偵をじっと見つめた月が、
形の良い傷一つない右の人差指で、竜崎の鼻の頭をちょいと突付く。

「その言い伝えって、新郎の幸せについてはな~んにも伝わってないよな?」
「そうですねぇ。6月のJUNEが古代の結婚を司る女神JUNOから来ているため、
婚姻と女性の権利を守護するこの女神の月に結婚すれば、きっと花嫁は幸せになれるだろうと、
そういう言い伝えらしいですからねぇ。花嫁限定ですね」
「じゃあ、僕は男だからだめじゃないか」
「いえ、花嫁には違いありませんし、月君ほどの美人なら女神もきっと祝福してくれます」

僕はまだYESと言ってないよ、とは言わず、月は再びニッコリ微笑んだ。
その微笑がちょっぴり黒く見えたのはきっと気のせいだろう。

「フフフ‥‥じゃぁ、花嫁さんの幸せってさぁ、
もしかしたら旦那様の幸せも吸い取って、2倍にも3倍にも膨れ上がるのかもしれないね」
「は?」
「ましてや僕は男だから、それくらいしないとジューンブライドにはあやかれないと思うな」
「‥‥‥‥」

竜崎、僕にお前の幸せ全部くれる?
反動で竜崎にだけ一杯不幸がやって来ても辛抱できる?
僕を愛してるって言える?

「言えます。愛してますよ、月君」
「耐える旦那様って、カッコイイかも」

チュッと竜崎の鼻の頭で可愛らしい音が鳴った。
それが月から竜崎への初めてのキスだった事に、次の日になって漸く気付くおバカな探偵。
幸せを花嫁に吸い取られるのは幸せなのか不幸なのか。
はたまたそれがキラの策略なのか、実はとっても初心な月の照れ隠しなのか。
どうにも判断できない世界の切り札も、実はとってもシャイな恋愛オンチだった。

 

「L!どうしてあそこで押し倒さないんですか!?」
「ワ、ワタリ?」

その夜、二人だけの甘~い雰囲気を堪能し、未成年の恋人が門限を守って帰った後、
頭がピンク一色の探偵にスーパー執事の雷が落ちた。

「絶好のチャンスをみすみす逃して!
 あの身持ちの固い月様のこと、この次いったい何時チャンスが巡ってくるか!」
「ワタリ‥‥何だか言ってる事が日頃のお前らしくなく、ものすご~く過激なんだが‥‥」
「既成事実でも作らなければ、
 お父上がお二人のご結婚に賛成されるはずがないと言ってるんです!!」
「そ、それは、確かにそうだが‥‥」
「あぁぁ!何時かの日のためにと思い、
 あんなに沢山のいい女をL様のベッドにお送りしましたのに!
肝心要の時に培ったテクニックが全く役に立たないなんて!
百戦錬磨の手練手管は如何なさったのですか!?」

あまりの言われように無表情ながら真っ赤になる珍しい世界の名探偵。
これでは世界の切り札と言うよりどこぞのスケベ親父だ。

「不詳、このワタリ!L様の奥方として月様に一生お仕えするつもりでおりましたのに!!
その老人のささやかな夢を、まさかL様が潰してしまわれるとは!!!」
「すまない、ワタリ。次こそは‥‥」
「この、役立たず!インポ!粗チン!!」
「はいっ?」

ついでに上品が服を着ているような執事まで壊れてしまった。

「月様からプロポーズのご返事をいただけるまで、3時のおやつはオアズケです!
当然、御返事はYES以外認めません!!」
「何ですとォォォ!!!???」

あぁ、憧れのジューンブライド。
幸せはどうやら花嫁さんの元にしか来ないらしい。

 

 

 

※毎度おバカ話ですみません。ラヴラヴはこれが限界です。トホホ‥‥
 (初期の頃なので、ノリが未だ未だ(>_<))

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