悪夢の4月1日(L的には3月31日)から死に物狂いで仕事を片付けたLが
自家用ジェットで日本に帰り着いたのは4月5日、L言う所の二人の記念日だった。
日本に着くなり愛する夜神月の父、将来は義父となる夜神総一郎に連絡を入れると、
恋人は新学期の講義内容確認のため大学に行っているという。
非合法な手段で車(天辺に赤くクルクル回るランプが付いている)をかっ飛ばし、
大学に駆けつけたLは、それこそ血眼になって恋人を、夜神月を探した。
「ラ、月君‥‥‥!会いたかったです~~~~!」
「ハハハ、もう帰って来たのか、流河」
あぁ、何日ぶりの再会でしょう。
離れ離れの恋人達が漸く出逢えたのです!感動です!!
(L、夫婦ではなかったのですか?それに貴方が仕事に出向かれて半月と経ってませんが)
(ノリで使い分けなさい、ワタリ。それに、半月でも私には百年ぐらいに感じられるんです!)
春を迎え、私の恋人はますます奇麗になりました!今を盛りと咲き誇る桜のようです!
(ハッハッハッ、僕に潔く散れと言うのか?L)
(いえ、月君のバックヴァージンは既に私が散らしましたから)
感動の再会を心から実感するため校舎から出て来た月に抱きつこうとしたLだったが、
カエル飛びの空中姿勢では防御も侭ならず、
あさっり月の左ジャブを右頬に食らいベシャリと地に落ちた。
「み、右ストレートじゃないのは、月君の優しさと思って良いですか?」
「ハハハ、僕の右手は神の右手だからね。大事を取ったまでさ」
(下手に殴って痛めたらノートに名前を書くスピードが落ちるじゃないか)
(あぁぁ!月君の微笑が黒いです!キラ決定です!もっとぶって‥‥)
(L、それはまた今夜ホテルで‥‥今は人目がありすぎます、ここは忍の一字で)
「そ、そうでした!月君、早速ホテルに参りましょう!」
「は?」
公衆の面前で行き成りそんな事を言われた昨年の東応大TOP入学者の一人夜神月。
老若男女に好かれる華のかんばせを恥じらいでほの朱く染め、
もう一人のTOP入学者流河旱樹を睨みつける。
とたん、周囲からドッと上がる野次馬の声。
どちらかと言えば黄色い声が多いのはBL世界の常識だろう。
遂に流河が夜神に告白したぞ!
いいや、あれは既にデキてる二人の発言だろ!
ステキ!流河君ったら何時の間に夜神君をものにしたの!?
ホテルって何処?リムジンに乗ってるくらいだから、流河君ってきっとお金持ちよね?
夜神君ってば、玉の輿?
いや~!夜神君とカエル王子の組み合わせなんて!美しくな~~~い!!
アイドルの旱樹の方が絶対似合う~!!!
「何を言うんですか、そこのブス。男は顔じゃありません、金です!甲斐性です!!」
この瞬間、流河こと探偵Lは大学じゅうの女子生徒の反感を買った。
と同時にほとんどの男子生徒から心の声援を受けた。
そうだよな、何だかんだ言って女は金に弱いもんな!
俺達だって金持ちになれば夜神みたいな美人を恋人に出来るんだ!!
流河が生きた証拠だ!!!
(それはつまり僕が流河の金に目が眩んだってことかな?フフ、フフフ‥‥)
(あぁぁ!月君の微笑がますます黒く!ステキです~~~!)
「いかん、いかん、つい妄想が‥‥」
どんな妄想?とは、敢えて聞くまい。
「さぁ、行きますよ、月君。準備はもう出来てますから」
「ちょっと待て、流河。話が読めない。
どうして僕がホテルに行かなくちゃいけないんだ?」
「忘れたんですか?今日は私達の記念日じゃないですか」
「は?記念日?」
正直月には全く心覚えがない。
「そう、記念日ですよ!私と貴方が初めて出逢った記念すべき日!」
(おまえ、僕が高3の時、僕の家に監視カメラ仕掛けなかったっけ?
しかも僕の部屋だけ64個も)
目の下の隈がいやが上にも目立つ顔で一人自分の言葉に酔いしれる流河は、
はっきり言ってキモイ、キモ過ぎる!
「あれは去年の今日、忘れもしない4月5日!私と貴方の運命とも呼べる出逢いの日!!」
「あ、あぁ、入学式の日ね。
言われてみれば、確かに僕達が直接会って言葉を交わした日かも」
「そうです!ですから今日は私達の記念日!早速ホテルでお祝いを‥‥!」
その時!
「ちょっと待った~~!」
「何奴!?」
月の抵抗など物ともせず意気揚々とその腰を抱え走り出そうとしたLの背中に、
何やら不穏な、そして微妙に鼻息の荒い声がかかる。
「記念日ですって?しかも二人が初めて出逢った?
ホッホッホ!だったら私と夜神君の記念日でもあるわけよね!」
高らかに響き渡るはまさに女王様の声!
「お前は‥‥!」
「さぁ、夜神君を渡しなさい!
才色兼備な夜神君に似合うのは、やっぱり才色兼備なこの私だけ!!」
「清楚高田!!??」
「いやさ、高田女王様!!」
それはミス東応大、高田清美だった!
「クッ、出たな!カマトトぶりっ子!何が清楚だ、この、厚化粧が!!」
「なんですって~!カエルの分際でよくもこの私にそんな口が利けたわね!
皆の者!やっておしまい!」
「「「「「キー!」」」」」
って、それ、ジャンルからして違いますから。
何時の間にか背後に多くの見るからにM体質な男達を従えた高田清美。
片や、得意のカポエラで応戦しようとする流河こと、探偵L。
まさに、一触即発!
しかし、ここでLは大きなポカをやらかした。
彼は臨戦態勢をとるため、一時的に夜神月を開放してしまったのである。
「へぇ、記念日ねぇ。だったら俺との記念日でもあるわけだよな?なぁ、月」
「山元?」
「って、誰だ!?貴様~~!」
「ちょっと、割り込まないでくれる!?」
ハッと気付いた時にはもう遅く、呑気な声に同時に振り返った二人が見たものは、
見知らぬ眼鏡の男にがっちり肩を抱かれた夜神月だった。
「4月5日といえば、俺と月が中学の校庭で初めて会った日だよな?」
「そういえば‥‥ってか、山元、お前W大だろ?どうして此処に?」
「ハハハ、大学交流コンパにお前を誘いに来たんだよ、月」
「コンパですって~~!いや~~!不潔よ~~~!」
今更それを言うか、女王様高田。
「許しません!私は妻の不貞は絶対許しませんからね!!」
「誰が妻だ!誰が!!」
「ヒィィ‥‥!痛いです、気持ちいいですゥ!月君、もっと踏んで‥‥!」
「だったら私がこのピンヒールで‥‥!!」
「女ァ!!お前はお呼びじゃない~~!」
蛇とマングースの戦いが今始ま‥‥‥‥‥‥‥
「なぁ、4月5日が記念日ってのはさ、
何も流河や清楚高田に限った事じゃないんじゃないか?」
「そりゃァ、そうだろう。なにせ入学式だったんだから」
「ということは、私と夜神君との記念日でもあるわけよね‥‥」
「俺と夜神の記念日」
俺も俺も、私も私も、
誰かが何気に呟いた一言が、まるで漣のように周囲に広がっていく。
「夜神!俺と記念日を祝ってくれぇ~!」
「月様ァ!私と記念日デートしてぇ!」
「いや、俺と歌舞伎町のSMクラブでパーティを!!」
「ディズニーランドのシンデレラ城で記念のキスを!」
「ウワァァァ~~~!た、助けて~~!」
ドッと群がる人波が目指すのは新世界の神!麗しの夜神月!!
「流河~~!責任取れ~~~~!」
どんなに切羽詰っても人前では律儀に『流河』と呼ぶ(実は)キラ様は、
それなりにLを気遣っているのかもしれない。
「ハハハ、月。相変わらず大モテだなぁ~。
どうだ?みんなしてこのまま合同コンパってのは」
「「「「「「「「賛成!!!!!!!!」」」」」」」」
そして実は一番の大物は山元かも。
「今日はドローね、流河君。でも私、負けなくってよ!
貴方みたいなキモ男に、夜神君は絶対!渡しませんから!!」
ホーホッホッホッ!と、
高らかな笑い声を残しMな下僕どもを従え優雅に立ち去る高様は、
どうやら庶民派割り勘コンパがお嫌いらしい。
「L、おいたわしや‥‥」
山元の『Let’Go』の掛け声の下、月を中心に若者達の集団が通り過ぎた後には、
哀れペシャンコに踏み潰されたカエルが一匹。
桜の樹の陰でレースのハンカチで涙をそっと拭いたワタリが、
「さて、私は月様をお助けに行きますか」
あっさり主人を見捨てた事にもカエルは気付かない。
「ラ、月く~ん‥‥」
こんな情けないカエルでも、一応世界の切り札と呼ばれている、らしい。
おそまつさまです。
※見ての通り「エイプリルフール」の続きです
(初期の頃に書いたものなのでパンチ不足?)