その日、漸く月と竜崎を繋ぐ手錠が外される事となった。
ヨツバキラこと火口卿介が正真正銘「キラ」と判明、
しかし、逮捕直後に死亡。
自供は取れなかったものの彼がキラである証拠「デスノート」を押さえたLは、
そこに記されていた「HOW TO USE」なるもののせいで、
Lが第一のキラにして唯一のキラと信じて疑わない夜神月の拘束を、
渋々解かざるを得なくなったのである。
『このノートに名前を書き込んだ人間は
もっとも新しく名前を書いた時から13日以内に次の名前を書き込み
人を殺し続けなければ自分が死ぬ』
分析不能な未知の物質でできた死神の「デスノート」。
そこに名前を書くだけで人を殺す事の出来る恐ろしい殺人道具。
それを持っていたのが火口卿介であり、
そこに連ねられた犠牲者の名前とその筆跡から、
火口がキラである事は既に確定している。
それに反して、夜神月がキラだとする証拠は遂に出て来なかった。
出て来なくて悔しい半面、
内心ホッとしたLは(その理由に本人はもう気付いている)、それを楯に、
夜神月の無罪放免を強弁に主張する日本の刑事達が忌々しくて仕方がなかった。
さりとて、真犯人が見つかり月の容疑がなし崩しに消滅した今、
拘束は不当なものでしかない。
「‥‥ここが、覚悟の時、ですか」
そんなLに残された道は一つしかなかった。
そうして、Lは刑事達が見守る中、自分と夜神月を繋ぐ手錠の鍵を外した。
「不満いっぱい、って顔だな、竜崎」
「はい」
「でも、仕方がないよ。
僕がキラだっていう物的証拠も証言も出て来なかったんだから」
「えぇ、それは判ってます。
ですが、月君がキラだとする私の考えは変わりません」
「竜崎!」
非難がましい刑事達の視線。
その中でも竜崎総一郎刑事局長の視線は格別だ。
何故なら彼は夜神月の父親だから。
「良いんだよ、父さん。逆にこうでなくちゃ竜崎じゃないよ」
「‥‥笑って言えるんですね」
「慣れたくないけど慣れちゃったからね」
「‥‥‥‥」
「それより竜崎。そろそろ離してくれないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「僕の手、掴んだままなんだけど」
そこで漸く刑事達は気付いた。
Lが月の手錠で繋がれていた左手を握ったままである事に。
「竜崎、月を開放するというのは嘘だったのか!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「父さん、だからそう興奮しないで」
「しかし、月!」
「それで?竜崎。どうしたいんだ?」
「月君なら、もう判っていると思うのですが‥‥」
「そうだな。結構判って来てるかもな」
月は硬く掴まれた自分の左手にチラリと視線を落とし、
それから少し困ったような笑みをLに向ける。
そんな中、Lが握る場所を月の手から手首へと変えた。
そして、徐にジーンズのポケットに空いた方の手を突っ込み、
そこからビロード張りの小さな箱を取りだす。
「それって‥‥」
パカリと開いた箱の中には月の予想通りの品、
他の刑事達には信じられない代物があった。
Lはその中に優雅に納められていた物をガサツにも口で咥え取り出すと、
箱を捨て再び空いた手の中にポトリと落とした。
その手が引き籠り探偵にしては男らしく大きくて、
武道の心得を示唆するように硬く骨ばっている事を月はよく知っている。
そんなLの節くれだった指が器用に摘み上げたのは金色の丸くて小さな物体。
内側に何やら文字が彫り込まれ、キラキラ光る石も嵌め込まれている。
俗に言う「結婚指輪」にとても酷似している。
それをしげしげ見つめていたLは、何かを決意するように表情を引き締めるや、
(そうと感じたのは月だけ)
少し引き気味だった月の左手をぐいと引っ張り、
体格に似合った、けれど苦労知らずの綺麗な指にそれを嵌めたのだった。
左手の薬指に。
サイズは測ったようにぴったりだ。
「りゅ、竜崎‥‥それは、何だ?」
真っ先に声を上げたのは月の父親である夜神総一郎だった。
その声は妙に上擦り、その顔は蒼褪め引き攣れている。
「見て判りませんか?結婚指輪です。
本来は婚約指輪が先なのでしょうが(ワタリにそう言われました)、
貴方がたのせいでその暇がなくなり、止むを得ず、
すっ飛ばしてこちらを先にしました。
婚約指輪は後でじっくり月君と相談して買いたいと思います」
「け、け、け、結婚!?ゆ、ゆ、指輪ぁ!!??ラ、月と相談!!!???」
「父さん、落ち着いて」
「局長!落ち着いて下さい!」
「また心臓が‥‥!」
「こ、こ、こ、これが落ち着いていられるか~~~~~っ!」
いきなりな展開に総一郎を初めとする刑事達は軽くパニック状態だ。
指輪?しかも結婚指輪?婚約指輪は後で買う?いったい何の話だ!?
「竜崎。念のため聞くけど、指輪のサイズは僕が眠ってる間に測ったのか?」
「はい」
「彫ってある文句は定番?」
「『死してなお、貴方を離しません』と、彫りました」
「ストーカーじみててお前らしい文句だな」
「私、ストーカーじゃぁありません。
でも、これしかないと思いました。ダメですか?」
「ううん。下手にカッコつけるよりこっちの方がいい。
ホント、お前らしくって‥‥微笑ましい?」
「気に入って頂けたのですね、良かった」
「月ォォォォッ!!」
轟き渡る父の魂の叫び。
しかし、当事者の二人は全く気にした様子もなく平然としている。
月に至っては解放された左手を目線まで上げ、
薬指に嵌められた金色のシンプルな指輪をしげしげと眺めやる始末。
「で?僕への口上は?」
「貴方を逮捕します」
「野暮だな」
「では、シンプルに、結婚してください」
「その前に肝心の台詞を言ってないと思うけど?」
「貴方が好きです、月君」
「僕も好きだよ、竜崎」
とうとう総一郎が泡を吹いてひっくり返った。それをあわてて支える刑事達。
「ラ、ラ、ラ、月君?こ、これっていったい‥‥」
目の前で起こっている出来事についていけない刑事達を代表して、
一番若い松田が目を白黒させながらこの状況の説明を求める。
「あぁ、お騒がせしてすみません。いえ、特に変わった事ではないんです」
十分変わってるから!とは、刑事達の内なる叫び。
「火口がキラだって確定したんですけど、それはもう覆らない事実なんですけど、
竜崎のキラは残念ながら火口じゃなくって、後にも先にも僕だけだって事です」
それだけの事です、と軽く笑って言われ、上司同様気を失いそうになる刑事達。
「そ、それは、まぁ‥‥粘着質の竜崎の事だから?判らなくもないけど‥‥
でも、だからって、その指輪は‥‥」
「これですか?」
只一人松田だけ、かろうじて意識を保つ事が出来たのは、
ひとえに彼も月にホの字だったからだ。
内心、このカエル野郎~~~!僕の月君に何してんだよ~~~~~~!!
ってなもんである。
「単なる竜崎の、Lの独占欲の顕れですね」
「失敬な。私の法律に基づいた素晴らしい計画を、
そんな身も蓋もない一言で済ませないでください」
やはりたった一言で済ませてしまった上司の息子さんに刑事達は言葉も出ない。
綺麗な顔で綺麗に笑って、
『世界の切り札』と称される超有名探偵(ただし正体不明)の、
不健康な隈が目立つ誰がどう見てもカエルにしか見えない顔に、
フッと艶めかしい吐息を吹きかける様が、
ものすご~~~~く!似合ってしまっている女王様は弱冠18歳の青年、男。
ちょっと人生踏み外して入れ込みたくなるくらい美人で大和撫子で、
時には厳しい鬼教官でその気になればLなみに嫌味百連発をかましてしまえる才女、
いやいや男。
あ~、そうですね。
天下のLとあろう者がちょっくら道を踏み外しちゃっても不思議じゃないですよね。
そんな結論に刑事達が達するまでそう時間はかからなかった。
「そんな事言っても、竜崎。
日本じゃ男同士の結婚は認められてないんだけど」
「何を仰る。この後、それが可能な国に飛んで婚姻届を提出する予定ですから、
何の問題も有りません」
「僕が素直について行くと思ってるのか?」
「イヤなんですか?」
「どうしようかなぁ~」
「私と一緒になれば退屈だけはさせませんよ」
「幸せにしてみせますと言わないだけ、他の連中よりましかな」
「他の連中?まさか、私以外の男にプロポーズされた事があるんですか?」
「うん、あるよ。あれ?僕の身辺調査でもう知ってたんじゃないの?」
「女性からのプロポーズの噂は押さえたのですが‥‥」
「あれぇ?意外にLの調査能力って大した事無い?」
「くっ‥‥精進します」
「うん。そうして」
「と言う事で、月君には年貢を納めて貰います」
「話が飛んだぞ、竜崎」
「安心してください。私は好きな人の過去に拘るつもりはありません」
「別に不安になんて思ってない。お前に知られたって全然平気。
ってか、そっち方面で僕はヴァージンだし」
「月君、そこは可愛らしく不安そうな顔の一つもするものでは?
ヴァージンって事はキスまでなら男とも経験済って事ですね?」
「え?そういうしおらしいのが好みだったのか?知らなかったよ。
ノリで男とキスする事もあったって事だよ。
まぁ、ご褒美でしてやった事もあったかな?」
「私の好みは貴方だと、もう判っていらっしゃるでしょうに。
ご褒美ですか。やはりキラは神ではなく女王様だったんですね」
「だったらこういう態度の僕で構わないだろ?
女王様ってのは言われ慣れてるけど。神って言われたのは初めてだ。
あぁ、女神様って言われた事もあったかな?
ちなみに何度も言うけど僕はキラじゃない」
女王様ってところは否定しないのか!?月君っ!!
刑事達の心境は軒並み『ムンクの叫び』状態だ。
「貴方がどんなにしらばっくれても私はもう気にしません、
しない事にしました。
既成事実を作ってからじっくり陥落させる計画に変更です」
「それって、以前は僕にキラだと白状させてから、
プロポーズするつもりだったって事か?」
「そうです」
「え?何?まさか『私が我が身を犠牲にして一生貴方を監視します』とか、
言うつもりだった?
探偵転じてキラの保護監察官になるぞ計画?」
「‥‥‥‥‥‥」
「うわっ、図星か。ダサッ」
なんじゃそりゃぁ!?――― 刑事達が声なき悲鳴を上げて床に撃沈する。
「そんなダサダサな男に魅力なんて感じないんだけど、僕。
それに、お前って童貞っぽいし」
「私は!童貞ではありませんっ!!」
「そんなムキになるなよ。で?相手はプロ?」
「高級コールガールです。病気の方もバッチリ検査済みでした」
えばって言う事かぁぁぁぁぁっ!?
仮にもプロポーズした相手にSEX相手の女性の話をする男がいるかっつ~の!!
やっぱりこいつは引き籠りだ!生粋の引き籠りだ!!
生身の女‥‥って、この場合は男か、相手の気持ちを考えろよぉぉぉぉ!!!
「残念ながら男性経験はありませんので、
これからの事はちゃんと勉強いたします」
「そっちはいいよ」
何の勉強!?そして、何がいいの!?月君っ!!??
「まさか‥‥月君‥‥」
「僕はいたってノーマルだ。
あ、どっちが上かはジャンケンで決めるってのもいいかも」
「私、上を譲る気はありませんよ。
と言うか、今さり気なく了承しましたね?了承と取って良いんですね?」
「そんなの、大人しくこれを嵌めたままでいる時点で気付けよ」
「いえ、その前から貴方が拒まないと確信してました」
「嘘つけ」
「はい、嘘です」
「正直でよろしい」
ダメだ、会話についていけない。天才は何とかと紙一重ってのは本当だったんだ。
これって、Lが月君にプロポーズして、月君がOKしたって事で良いのか?
局長‥‥ずっとこのまま寝ててください‥‥‥
ラ、月君が、僕の女神様が!引き籠り探偵の餌食にっ!!‥‥‥‥
「自信ないくせにプロポーズして来た勇気だけは誉めてやるよ、竜崎」
「ありがとうございます」
「で?切っ掛けは何?やっぱりヨツバキラのせい?」
「‥‥はい。キラの保護監察官になるぞ計画では、
貴方をゲットするのに時間が掛かりそうだったので。
その間に悪い虫が付くのも嫌ですし‥‥」
「火口がキラだって確定しちゃったからね」
「貴方にしてやられました‥‥探偵L、一生の不覚です」
「僕はキラじゃないよ。
でも、うん。探偵としても男としても不覚だね」
「ワタリにも言われました。恋愛は先に惚れた方が負けだと!」
うわぁぁぁ~~~っ!やっぱりそうなのかぁ~~~~~~!!
局長!貴方の息子さんがカエルの餌食にされそうですぅぅ~~~~っ!!!
男同士‥‥不純同性交友‥‥恵利子ォ!由美ィ!お父さんは、お父さんはぁ~!!
月君が!僕の癒しが、女神様が!!引き籠りのむっつりスケベにぃぃ~~っ!!!
「ですから、決めました!もうなりふり構ってられません!!
ワタリにもそう言われました!!!」
「え?構ってたのか?ワタリさんも良い事言うね、うん」
そんなふうには見えんかったぞぉ!
ってか、月君に惚れてるんなら、どうしてあんなに厳しい態度が取れたんだよぉ!?
どんだけツンデレ!!??
「そう言う訳で、貴方に残された道は私と結婚する以外ありません」
「それは、探偵Lとして言ってるのか?
それとも、只の竜崎として言ってるのか?」
「竜崎も探偵です」
「そう。じゃぁ、この指輪‥‥」
「私は探偵しか出来ないんです!」
突然の大声に混乱していた刑事達がLに注目する。
「探偵をするしか‥‥能のない男なんです‥‥」
え~‥‥と、ちょっと否定できないものが‥‥‥‥無言で頷く刑事達。
引き籠りの刑事や捜査官なんて聞いた事無いぞ、と言うのが正直な感想。
ってか、潔癖症気味だし、人間嫌いっぽいし、ムチャクチャ個性的だし、
そんなんでどうやって被疑者を信用させて情報を得るんだっつ~の。
何より!自分より頭が悪いと思っている人間の相手が出来るとはとても思えない。
「そうだな。お前に出来るのは安楽椅子探偵ぐらいだな。
ハッキングの腕も思ったほどなかったし。今までは誰か専門家を雇ってたのか?」
「はい」
「うふふ。じゃぁ、僕と結婚できたら、タダで!情報を得られるようになるな」
「そ、そこまでは考えてませんでした」
「裏でワタリさんがにんまりしてそうだね」
「‥‥ワタリ‥‥貴方、まさかそこまで計算して‥‥」
あぁ、何だか目に見えるようだ。嫁と舅にこき使われる引き籠り探偵の図が‥‥
え?待てよ。それって月君も探偵業に関わるって事か?
え、え?まさかの夫婦探偵!?
うわぁ~~、絶対局長には聞かせられない話だよ、おい!
「それで?もう一度聞くけど、結婚したいのはL?竜崎?」
「‥‥‥‥‥」
「あぁ、どっちも探偵だっけ」
月君、楽しんでる?カエルを甚振って楽しんでる?
だよな‥‥容疑者扱いされて腹が立たない奴なんていないよな。
あぁ、これって月君の復讐なのかも‥‥女装様のお仕置きみたいで何だか‥‥‥
ハッ!い、いかん!!つい、うっとり‥‥あわわわわ!!
「貴方が好きなんです‥‥」
「気付いてたよ。だって、お前の視線、すっごく熱かったから」
「流石です、月君。その観察力の鋭さ、探偵の必須スキルです」
「でも、お前のために使うとは限らない」
「私、たぶん初恋なんです」
「淋しい青春だな」
「だって!仕方ないじゃないですか!
他人に興味が持てなかったんですから!!」
「どんだけナルシスト?」
「貴方と一緒にしないでください」
「僕は自分の容姿に自信があるだけでナルシストじゃない」
十分ナルシストに聞こえるよ、月君‥‥‥
どうせ俺(僕)達ゃ十人並みだっ!
うわぁぁぁっ!に、睨まないで、女王様っ!!大人しくしてますからぁ!!!
「そうですね‥‥貴方の容姿なら、誰にでも好かれますね。
友達に不自由しなかったでしょ?」
「お前だって悪くないと思うよ。結局、拒否してるのはお前自身だろ?」
「私は、一生一人で生きて行くつもりだったんです」
「ワタリさんに世話されないと、まともに暮らせない癖に?」
「ワタリは‥‥」
「あまりに身近過ぎて意識しなくなった?」
「‥‥かもしれません」
「罰当たりな奴」
「物心付いた時にはもうワタリが傍にいて、
この世で信用できる人間はワタリ一人だと思っていたんです」
おぉ~い!それって俺(僕)達も信用できないって事かぁ!?
やってらんないぜ、このぉ!
な、何でまた睨むんですかぁ?女王様ぁっっ!
「じゃぁ、自分以外の人間を信用できる機会を奪ったワタリさんにも責任有り?」
「それは‥‥」
「それとも、そんな機会はあったけど、やっぱり自分で拒否した?」
「‥‥否定しません」
「やっぱりどんだけナルシスト?
お前が頭いいのは認めるけど、お前のレベルを他にも求めるのは無理があるだろ」
「だから一人で生きて行くつもりだったんです」
「金があるからこそできる事だな」
「そうなの、ですか?」
「金がなかったら誰も見向きもしない。
こっちが世間を拒否するんじゃなくて、世間がこっちを拒否するからだ。
それは一人で生きて行くというより、そういう状況に追い込まれるって事に他ならない。
そんな人間、幾らでも知ってるんじゃないのか?
会った事はなくても、知ってはいただろ?」
「それは‥‥えぇ‥‥しかし、金なんて幾らでも‥‥」
「だから、世の中お前みたいに何でも出来る人間ばかりじゃないんだ。
それに、僕みたいに運の悪い人間もいるんだし」
チクリと嫌味を忘れない所がステキです、女王様‥‥!
あぁっ!勝ち誇ったような笑みをこちらに向けないでぇぇッ!
跪きたくなりますからァァァァッ!!
「私は‥‥知っているつもりでした」
「何を?」
「人間を‥‥」
「否定的言葉しか聞けそうにないから、その先は言わなくていいよ」
「一人で生きていけると‥‥思っていました‥‥」
「欲張り」
「‥‥はい」
何か話がシリアスに向かってないか?
え?シリアスなのか?カエルの、女王様へのプロポーズが?
顔は‥‥笑ってないからシリアス?いやいや、元からあんな顔か。
シリアス反対!カエルの横暴反対!!月君は僕が嫁に‥‥‥お前は黙れ!!
「僕が言いたいのはな、竜崎」
「‥‥はい」
Lと刑事達が見守る中、月が24金製結婚指輪を嵌めた左手を腰に当て、
何もない右手の人差指を顎に当ててじっとLの顔を見つめる。
「キラが好きだったくせに僕を選ぶのかって事」
「‥‥それは‥‥‥」
「竜崎はキラに執着してただろ?」
「‥‥はい」
「キラの事を考えると興奮して眠れないんだろ?」
「‥‥‥はい(^O^)」
「胸がドキドキするんだろ?」
「‥‥‥‥はい\(◎o◎)/!」
「それで、僕がキラじゃなくなってガッカリしたんだろ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい(>_<)」
ポーカーフェイスなのに、好きな人の言葉に一喜一憂しているカエルの様子が、
手に取るように判る‥‥判りたくねぇ~~~~~っ!!!!
「今も僕がキラだったと信じて疑わないんだろ?」
「はい」
そこだけはっきり言うのか?おい!
「でも僕はキラじゃない」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい」
だから!そここそはっきり言えっての!
「それなのに僕が欲しいの?」
「はい」
あぁ、やっとはっきり言った‥‥‥
「どうして?」
「貴方をキラに戻さないためです」
竜崎‥‥そんなに月君がキラでいて欲しかったのか‥‥‥
「手錠を外したら貴方はキラに戻って私を殺すでしょう。
以前はそれも有りかと思っていました。
それが私と貴方の真剣勝負だと思っていました。
勿論、負けるつもりはありませんでしたが。
けれど、今の私は死にたくないと思っています」
「臆病風に吹かれたのか?」
「いいえ」
黒いドングリ眼を月から決して離さないまま話を続けるL。
不気味だと感じているのは刑事達だけのようだ。
月く~~~ん!目を覚ましてぇぇぇ~~~~~~~っ!!
「私もただの一人の人間だと悟っただけです」
「‥‥‥‥‥」
「探偵Lとしても私はキラとの戦いに至上の喜びを感じていました。
今もそれは同じです。
だから、月君がキラでなくなって私は腑抜けになってしまいました」
「僕はキラじゃない」
「それは受け付けません。けれど、キラじゃない月君と捜査をするうちに私は‥‥
何と言いますか‥‥世間で言う所の、
人並みの幸せなるものを初めて感じたのです」
「人並みねぇ‥‥」
「古今東西、数多の人々が数多の人生をこの地上で送ってきました。
幸せな人生、不幸な人生、短い人生、長い人生。
波風立たぬ人生、波乱万丈な人生‥‥
その中で、穏やかで平凡な人生が一番だ、と言う考え方があると、
私は知っていました。
知ってはいましたが、そんな人生に価値があるとは思えませんでした。
けれど、この夏を貴方と過ごして、私は‥‥
穏やかで平凡な人生が一番だと、そう考える人達の気持ちが、
やっと理解できたような気が、するのです。
以前は考えもしなかったのですが‥‥そんな人生も有りかなと、
思えるようになったのです」
「それは良かったね」
「ですから私は‥‥今まで通りLを続けながら、
その幸せも手にしたいと、そう思ったのです」
「やっぱり我儘」
うわぁぁ‥‥女王様は流石に情け容赦ないですぅぅぅっ!!!
「探偵Lの興味は事件の謎、犯人そのものに興味はありませんでした、今までは。
そう言う意味でキラは特別です。私はキラそのものに興味を持ちました。
キラを追う事に、キラの思考を推理する事に、大いなる興奮を覚えた。
けれど、その興奮は事件解決と同時に収束する一過性のものでしかない。
それを私は何度も経験しました。
キラを逮捕した後に私を待っているのは‥‥虚しい人生です」
「キラ以上に興奮できる犯罪者が現れるかもよ?」
「貴方のように美しく知性に溢れ、何でも出来て誰にでも好かれる、
優等生なのに喧嘩っぱやくて、
情が深いのに平気で人をカエル呼ばわりできる犯罪者は、
この世で貴方しかいません」
誉めてるのか?貶してるのか?やっぱりツンデレ!?
「その心は?」
よもやのねずっち?
「私を一人にしないでください」
Lが不意に表情を歪めた。今にも泣きそうな子供っぽい顔だ。
「貴方がキラでもキラでなくても、手錠を外せば貴方は私の元を去っていく。
貴方を引き留める手立てがない訳ではない。私の権力を使えば。
けれど、それでは貴方の心を得る事は出来ない‥‥」
「確かに。権力を嵩にきる輩は僕の一番嫌いな人種だね」
「私は‥‥貴方の笑顔を身近に見ていたいんです、月君。
貴方の笑顔だけでなく、怒った顔も困った顔も泣いた顔も‥‥
私以外の誰にも見せたくない。
貴方に怒鳴られ、嫌味を言われ、カエルと小バカにされながら毎日世話を焼かれて、
貴方と意見を戦わせつつ、一つの事を成し遂げたいのです。
ずっと、一生‥‥死ぬその時まで‥‥」
「竜崎‥‥」
「私を‥‥孤独な人生から‥‥救って下さい‥‥‥月君」
その声は大の大人が出す声ではなかった。
寄る辺ない子供の声だった。
「僕の心が欲しいの?キラの?夜神月の?」
「両方です」
「ほんと、欲張り」
「私と結婚してください。そして、私と一緒にLをやりましょう。
決して貴方を退屈させません」
「僕の夢は父さんと同じ警察官になる事なんだけど」
「貴方なら二束の草鞋ぐらい平気でしょう?
いえ、探偵と警官と人妻の三足の草鞋ですか」
「それぐらい確かに簡単だけど、え?何?探偵と警官と人妻?
探偵と学生と人妻じゃなくて?」
「!」
は?え?何すかぁ?それぇ~~~????
刑事達が思わぬ月の言葉に目を白黒させている間に月の父である総一郎が、
『ラ、月ォォォ‥‥父さんが今、助けに行くぞぉぉ‥‥‥
おのれぇ、カエルゥ‥‥皮をひん剥いてケツの穴から空気を吹き込み、
風船地獄を味わわせてやるゥゥゥ‥‥』
と、少年時代の懐かしい残酷な遊びを口にしながら目を覚ました。
「お前、これは結婚指輪だって言ったけど、
お前のそのプランじゃ、婚約指輪にしかならないんじゃないか?
4年の間に僕の気が変わっても知らないぞ」
「月?何を言ってるんだ!?」
??????????????????????????
刑事達も局長同様、頭の中が『?』でいっぱいだ。
「今すぐ結婚しましょう、月君!探偵と学生と人妻!!三足の草鞋万歳!!!
ただし、+キラの四足の草鞋は一生禁止です!!!!」
「うふふふふ、キラじゃないってば。
運が良かったな、竜崎。日本の法律では男の結婚可能年齢は18歳だ」
「私の奥さんは18歳の幼な妻ですね!」
「ラ、ラ、ラ、月ォ!?」
「ワタリ、ワタリッ!直ぐに飛行機の手配をしてください!!
私と月君の結婚届けを出しに行きます!!!」
「竜崎ぃぃぃぃぃっ!させるかぁ、このカエル野郎~~~~~~っ!!」
「「「「きょ、局長!興奮したら心臓が‥‥!!」」」」
「ふぉっほっほっ。だから言いましたでしょ?L。
月様には情けなく縋った方が振り向いてもらえる確率が高いと」
「ワタリさん、流石カエルの育ての親ですね。
竜崎のチャームポイントをよくご存じで」
「月様のお好みも、だいたい察しがついているつもりです。
日頃インテリぶってる男の弱ってる姿に、とかく知的クール美人は弱いものです」
「うふふふふふふふふ、僕、超個性派が好きなんですよね。
退屈な男って、out of 眼中?」
何処から出て来た!?スーパー執事!!
チャームポイントって何?好みって、何!!??
月く~ん!どうして僕を見ながらそんな事言うんだい?え?僕って退屈な男??
黙れ!松田ぁぁ~~~~!!
うちの息子も娘も、私の目が黒いうちは何処にも嫁にやら~~~ん!!!
ですから局長!抑えて、抑えてぇぇぇっ~~~~!!!!
「では、月君。いざ屋上へ!」
「僕がお前の仕事とプライベートのパートナーになるからには、
Lに仕事の選り好みはさせないからな」
「覚悟してます。初めからそのつもりでした。
キラ再臨の必要がないくらい!頑張って犯罪者を捕まえます!!」
「捕まえましょう、だろ?」
「!は、はいっ!!」
「これで、私は安心して『ワタリ』を引退できます」
「ワタリさんも一緒に暮らしましょうね。
そして、時々、Lの思い出話を僕に聞かせてください」
「月様‥‥あ、ありがとうございます」
「ラ、月!?わ、私は‥‥?」
「父さんには未だ粧裕がいるじゃない」
「カ、カエルの婿なんぞ、私は認めんぞぉぉぉぉ~~~~っ!!!!」
あぁぁぁぁっ!局長が泡を吹いて、また倒れたぁぁぁぁぁ!!
医者だ、医者を呼べ~~~~っ!
大丈夫、私は医師免許も持っておりますので。
出たな、スーパー執事!こうなったのも、あんたのせいだろうがぁ~~~っ!!
おや、何の話ですかな?ふぉっほっほっほ。
そんな事言ってる間に竜崎が月君を~っ!カンバッ~~ク、月く~~~ん!!
「このまま空港に向かいます、月君」
「良いけど、パスポートは?」
「こういう時こそ、権力に物を言わせるです」
「そう言うの嫌いじゃないよ」
「貴方のその割り切りの良さも好きです」
「ところで、竜崎。一つ確かめたい事があるんだけど」
「はい、何でしょう」
「今日はお前の誕生日かい?」
「!」
「火口を逮捕する前から、時々カレンダーを見てただろ?
PCのタスクバーの日付も」
「‥‥月、くん‥‥」
「どうせプロポーズするなら自分の誕生日に。そう思った?
だったら、結構ロマンチストだな」
「‥‥な、ぜ?」
「どうしてお前がカレンダーを、日付を気にするのか気になってた。
キラ逮捕に期限があるのかとも思ったけど、そんな話は一度もなかったし、
じゃぁ、キラに関係ない、お前にとってだけ重要な日かと‥‥」
「素晴らしい‥‥!素晴らしいです、月君!!
それだけで、今日が私の誕生日だと推測するなんて‥‥!!!」
「だって、お前にとって意味のある日なんて、そうそうないだろ?
過去の事件に関する日付を、僕と一緒にいて気にするとは思えないからな」
「自信たっぷりですね」
「お前だって得意分野では自信たっぷりだろ?」
「そうですね‥‥もう少し、恋愛関係のスキルを向上させておくのでした」
「バカだなぁ。お前の方が僕に惚れてるからこそ、いいんじゃないか」
「それが貴方の恋愛法則ですか?」
「違うよ、夫婦が長続きするコ、ツ」
「!ラ、月君‥‥!!」
「誕生日おめでとう、L」
「!‥‥‥き、きっと貴方を幸せにしてみせます!!」
「やっと、言ったな。
嘘ついたら、キラに戻っちゃうからな」
「それ、自白ですか?」
「うふふふふふ、さ~てね」
「し、新居はこのビルでいいですね!」
「もちろんさ、旦那様」
「×●△※○■×▼※◇≠☆★§◆∀(^O^)/」
「これ以上はちゃんと籍を入れてから、ね」
「結婚、万歳!!」
「ふぉっほっほっほ、結婚は人生の墓場とも言いますぞ、L」
「大丈夫ですよ、ワタリさん。甘い墓場に、僕がしますから」
「Lを宜しく頼みます、月様」
※キラな月と探偵Lが幸せになるにはこれしかない!って事で。
「三足(四足)の草鞋」のくだりが書きたかった。
あと、微妙な言葉使いと。「します」と「しましょう」とか。
時間が掛かってパワー不足になったのが残念(>_<)
タイトル、最後まで思いつかなかった。