「DEATH NOTE」よ、永遠に!

※この話は『キラ様追悼!』の続編?にあたります。
 「デスノート」は高校時代山元が原案を考え、
 月がトリック考案を手伝ったエンターテイメント小説です。
 その数年後、中学時代のA先輩が編集者をしている某タウン誌の穴埋め連載小説として発表され、
 口コミで人気沸騰、大手出版社から続編まで出たベストセラー小説となりました。
 「デスノート」の主人公キラは当然ながら月がモデルです。
 でも、警察の仕事で忙しい月はその事を全く知りませんでした。
 なにせ、原作者の山元も、A先輩も、そして家族も友人達も職場の同僚も、
 みんなそれを月に隠していたからです。
 だって、月が怒るのは目に見えていたから‥‥‥
 これは、そんなお話です(^O^)

 

 

 


「お兄ちゃん、デスノートって知ってる?」


その日久しぶり実家に顔を出した夜神月は、母が張り切って夕飯を作っている間、
妹の趣味であるらしいバラエティ番組を見るとはなしに見ていた。
明日は父総一郎の誕生日だ。それに合わせて月は休みを取り、全ての仕事を片付けて来た。
父も休みだ。そうなるよう月が密かに上に働き掛けた。
そう言う事には渋い顔をする父も今回ばかりは何も言わない。
と言うか、父に知られるようなへまはしていない。
父は何も知らず偶然自分の誕生日に休みが取れ、
なおかつ息子も休みだと知って心から喜んでいる。
久々家族四人が揃うのだから当然だ。
家族思いだが真面目一徹の父は、
警察庁No.2の役職に就く前から仕事で家を空ける事が多かった。
それに加えて大学卒業後国家公務員となり警察庁に入庁した月が独り暮らしを始めた事で、
更に家族が揃う時間が減った。
明日は本当に久々!家族が揃うのである。
息子大好き娘大好き、勿論妻も大好き総一郎が喜ばないはずがなかった。
当然、月も父が大好きだ。最も尊敬する人間の一人である。
ただ、まぁ、何と言うか‥‥‥周囲から理想的な人間と言われる月も、
やっぱり人間には違いないので、
時にはちょっぴり父への不満が爆発し、その尊敬が揺らぐ時もある。
今夜がどうやらその時であるらしい。


「は?何だって?粧裕」
「だからね、『デスノート』って小説知ってる?って聞いたの」
「‥‥‥知ってるけど?」

仕事で毎日来ているスーツからお泊まり用の私服に着替え、
父が風呂から上がるのをリビングのソファに座りのんびり待っていた月は、
突然妹の粧裕が口にしたとある単語に異常に反応した。ただし、心の中だけで。
見た目は全くちっとも、何の変化もない。
妹と母自慢の綺麗な微笑みで妹を振り返っただけだった。

「読んだ事ある?」
「人に薦められて取り敢えず目を通したかな、って程度?」
「わぁ!読んだんだ、お兄ちゃん!!」
「‥‥‥‥‥」
「聞いたぁ?お母さん!お兄ちゃん、デスノート読んだんだってぇ!」
「あらまぁ、そうなの?じゃぁ、もう大っぴらに話題にしても平気ね?」
「ねぇ~~~~」

何が『ねぇ~~~~』なのか知りたくもないが、その裏に何があったのかは何となく判った。
たぶん、誰もがその時の月の反応を予想し震えあがり、
『デスノート』の話を月の耳に入れないようにしていたのだろう。
うふふふふふ‥‥余計な事してくれたよねぇ、山元‥‥覚悟は出来てるのかなぁ?
そんな、幼馴染の山元が聞いたら失神間違いなしの台詞を胸の内で呟きながら、
月はダイニングテーブルで雑誌を広げている妹に慈愛の籠った微笑みを向けた。

「で?それがどうかしたか?」
「えへへ、お兄ちゃんがもう知ってるんなら話が早いかな?
 あのね、デスノートってね、
 お兄ちゃんも知っての通り今話題のベストセラー小説なんだけど、
 映画化希望の声が高いのに、原作者が渋ってるってのでも有名なんだよ」
「ふ~ん、それで?」
「出版社もプロデューサーも大乗り気なんだけど、
 原作者だけが今も反対してるんだって」

そうか、A先輩は映画化賛成派か‥‥ふふふ、未だ諦めてなかったんだ、
うふふふふふふふ‥‥‥‥
勿論そんな不穏な笑い声も全く外に出していない。
あくまで心の中だけで真っ黒に笑っている。
それが夜神月の得意技(?)である。
親しい物達は当然百も承知だが、何故か何時も忘れてしまう。
夜神月の見た目にうっかりあっさり騙されてしまう。と言うか、自ら騙されてしまう。
それもまた喜びだと、無自覚に思っているらしい。第三者、ドン引き!

「じゃあ、きっと映画化は無理だね」
「そうなの!それにファンが怒ってね!!」

や~い、不特定多数の日本人に恨まれてしまえ、山本ぉ~。
剃刀の一つも受け取ってしまえ~~~!
ニコニコ妹の話を聞く月の笑顔にそんな恐ろしい呪いの影は微塵もない。

「デスノートの映画化実現のために、署名運動が巻き起こってるんだ!」
「署名運動?」

何やら不穏な妹のその一言に、初めて月の微笑みに陰りが‥‥‥

「うん!誰が言い出したか判んないんだけど、
 デスノート映画化希望の署名を募ろう!って、ネットで盛り上がってね、
 友達に呼びかけたり学校や会社で署名運動して、
 その集まった署名の名簿を出版社に送るのが流行ってるんだ!」
「‥‥‥そうなんだ(平和ボケ日本人めが!)流行ってるんだ(何暇な事してんだ!)」
「それでね!粧裕の女子大でも署名運動が起こっててね、
 取り敢えず一人当たりのノルマとして最低でも50人の署名を集めないといけないんだ!」
「粧裕、お前大学で何やって‥‥」
「だってぇ、粧裕もデスノートのファンなんだもん!」
「そんな事する暇があったら勉強‥‥」
「だからね、ハイ、お兄ちゃん!」
「‥‥‥‥‥は?」

ちょっと頭が痛い出来事に一瞬目を伏せた隙に、
テーブルにいた妹の粧裕が月の眼前にまで迫っていた。

「お兄ちゃんも協力して!」
「‥‥‥‥‥‥‥何に?」
「だからぁ、デスノート映画化希望の署名運動にだよ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(どうして僕がっ!!)」

目の前に突き付けられた本格的な署名用の帳面。
そこには既に何人もの名前が書き込まれているようだ。
そのどれもが女性の名前なのは妹の粧裕が通っている大学が女子大だからだろう。

「‥‥ってか、なんで母さんの名前まであるんだ!?」
「あら、そんなの、母さんもデスノートのファンだからに決まってるじゃない」
「特にキラ様のファンなんだよねぇ~」
「粧裕だってそうでしょ?」
「「ね~~~~~~」」

いや、ね~~~~~~~、じゃないからっ!!
そんな月の心の叫びを無視して名簿とペンが月の手に押しつけられる。

「はい、書いて書いて~」
「イヤ、粧裕。書いて書いて~、じゃなくて‥‥」
「え?お兄ちゃん、粧裕のお願い聞いてくれないの?」
「まぁ、月ったら。可愛い妹に協力できないって言うの?」

映画化に賛成か反対かは聞かないんだね?母さん‥‥‥‥‥‥

「お兄ちゃんが書いてくれたらノルマ達成できるの!だからお願いっ!!」
「だったら父さんに頼んで‥‥」

ほんのり涙目の妹から目を反らし、
(嘘泣きなのは判ってるぞ、粧裕!お兄ちゃんの目は節穴じゃない!)
サッと風呂場に目を走らせる月。しかし!!

「あ、お父さんの署名はもう貰っちゃった!」
「な、に?」
「ほらっ!」

そうして見せられたのは最初のページ。
その冒頭に書きこまれているのは間違いなく父総一郎の名前だ。
頭が痛い事に、その筆跡に月は確かに見覚えがあった。

「ねっ!だから、後はお兄ちゃんだけなの!」
「うふふふふ、勿論お母さんも、近所の奥様方も既に署名済みよ」

母の笑い方に密かな血の繋がりを感じながら、
右手に握らされたペンに静かに視線を落とす月。

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

や、やられた~~~~~~!こ、この僕が‥‥一生の不覚‥‥‥!
妹粧裕と母の笑顔全開の脅迫に、月は自分が罠にはまった事を理解した。
ここで月が署名した瞬間、デスノートの映画化は決定されるだろう。
名簿は粧裕の手からA先輩の手に渡され、
これがお墨付きとなってデスノートの映画化は開始される。
後で月が何を言っても無駄だ。
何故なら、この名簿が、実は月も映画化を希望しているのだと言う証拠にされてしまうからだ。
誰だ?誰の入れ知恵だ?誰の差し金だ!?余計な事を‥‥!
いや、今なら未だ間に合う。署名さえしなけれがいいのだ。署名さえ‥‥‥

「あっと、ちょっとトイレに‥‥」
「その前に名前書いて、お兄ちゃん」
「そうよ、月。早く書いちゃいなさい」
「‥‥‥‥‥」
「粧裕のお願い聞いてくれないの?」
「月ったら、お母さんのお願い聞いてくれないの?」

嫌な汗がタラリと流れる。
どんな凶悪事件に遭遇しても怖気づくどころか顔色一つ変えなかった月の微笑みが、
微妙に引き攣ったものへと変わる。心の内はそんな比じゃないくらいパニクっているが。

「ほらぁ、早くぅ」
「おほほほほ、ほらほら、月」
「う‥‥あ‥‥判った、よ」

完全無欠、友達も上司も顎でこき使える、
情け無用の女王様(友人一同談)な月にも弱点はあった。
真面目一徹で仕事人間だが、息子大好き娘大好き妻も大好き夜神総一郎の血を、
息子の夜神月も確かに受け継いでいたのだ。
即ち、妹にはめっぽう弱い!
うちの妹は世界一可愛い!父と自分の目が黒い内は絶対妹は嫁にやらない!!
妹が欲しければ僕を倒してみろ!!!と、父総一郎も顔負けに本気で思っていたりする。
妹が男友達を家に連れて来るたび、下僕どもを使ってその男の一切合財を調べさせ、
妹に相応しくないと判断するや、
どんな手を使ってでも別れさせたのは友人間では有名な話である。
ちなみに、妹の粧裕も云わずと知れたブラコンなのでその辺り気にしていない。
彼女の中でも兄以上の男は残念ながら存在していなかった。
それでも、最近ちょっぴり何処かで妥協しないとね~、とは思っていたりする。
その妥協点の見極めが大変よねぇ~、と母と話し合っていたりもする。
実に仲の良い母と娘だ。

「わ~い!お兄ちゃん、ありがと~~!!」

そんな弱点を当の妹にバッチリ逆手に取られ、
忌々しい事極まりない『デスノート』なる小説の映画化希望!に署名してしまった夜神月。
誰が好き好んで自分がモデルとなった小説の映画化を希望するものか!!
ましてや『デスノート』の主人公は取り敢えず殺人犯なのだ。
刑事の自分がモデルだなんて、笑い話にもならない!!
おのれぇ~~~~!どうしてくれよう、山本ぉ~~~~!!先輩A~~~~~~~~!!!
そう、心の中で悪態をつきながら、厭々!名簿にサインした瞬間、
カシャッカシャッカシャッ、という小さな機械音が聞こえて来た。

「?母さん‥‥?」
「おほほほほほ!証拠写真、撮っちゃった~~!月もこれで言い逃れできないわよねぇ」

それは、母がデジカメで月の署名の瞬間を映像記録として残した音だった。
しかも、連続写真で。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「やった~(^O^)!早速これ出版社に送ろ~~~っと!!」
「粧裕、その前にコピー忘れないでね。特に月の署名ページ」
「判ってるわよ、お母さん」
「‥‥粧裕‥‥‥母さん‥‥‥‥」
「お兄ちゃん大好きぃ~~~!」
「私も聞き訳の良い息子を持って幸せよ、月」

反論の余地はなかった。その暇もなかった。
パソコンのプリンターでさっさと名簿のコピーを済ませた粧裕は、
デジカメ同様何処に隠してあったのか、
EXPACK500(既に宛名書きこみ済み)を取り出し、
それに名簿を入れるや『ローソンに行ってきま~す』と一言言って、
満面の笑顔を湛えスキップしながら出掛けてしまった。

「粧裕!独りで夜道を歩くのは危険だ!!父さんが一緒に‥‥!!!」

そんな粧裕の後を、バスタオルを腰に巻き付けた父総一郎が追いかけようとする。
どうやら何時の間にか風呂から上がった父は、
物陰で今のやり取りをこっそり窺っていたらしい。
廊下の一部だけ異様に濡れている。
自分が既に署名してしまった事実を息子に知られ、出るに出られなくなったようだ。

『父さん、裏切ったね‥‥』

そんな恐ろしい台詞を愛してやまない息子から、
妻と娘が大のお気に入りの綺麗な微笑み付きで言われたくなかったのだろう。

「おほほほほほほほほほ、貴方?そんな恰好で何処へ行くのかしら?」
「さ、幸子‥‥!行かせてくれ、粧裕が、私の大事な粧裕がぁぁ~~~~!」
「強制猥褻罪で捕まりたくなかったら大人しくしてらっしゃい!」

母に腕を掴まれ風呂場へ逆戻りさせられる父の情けない姿を目で追いながら、
お仕置きは無しにしておこうと思う、父親思いの、でもチョッピリ薄情な息子。
この瞬間だけは、月の父への尊敬は微塵も存在していなかった。
大丈夫、明日になればちゃんと復活している。
だって、夜神家は人も羨む仲良し家族なのだから。

 


「さて、署名してしまったものは仕方がない。取り敢えず、今後の対策でも練っておこうか」

そう言って立ち上がった月は未だ知らない。
妹と母が『夜神月キラ様化計画』を練っている事を。

『お兄ちゃんが刑事だなんて日本の、ううん、世界の損失だよね。
 芸能界にデヴューして国民的アイドルになって、
 選挙に打って出れば一位当選間違いなし!
 今だって警察官僚の下僕化は着々と進行してるって松田さんが言ってたし?
 お兄ちゃんが政治家になれば国会議員も官僚もお兄ちゃんの下僕!
 日本の政治はお兄ちゃんの思うがまま!
 あのお兄ちゃんが悪政なんかする筈ないから、当然日本の未来は薔薇色!!
 ついでに某大統領だって、某主席だって、お兄ちゃんの魅力に勝てる筈ないから、
 最終的には世界がお兄ちゃんの物に‥‥!ほら、世界平和なんて楽勝に成立しちゃう!!
 世界統一万歳!お兄ちゃん万歳!!キラ様万歳!!!』
『お母さんは月のマネージャーになってジョニー・デップに会えればいいわ』

あな恐ろしや妄想母娘。
しかし、その話を聞いて、あながち妄想で終わらないんじゃないか?と思う者多数だろう。
眉目秀麗頭脳明晰運動神経抜群、性格良し、見た目良し!
良妻賢母で世話好きで、微笑めば天使もかくや、怒ればまさに女王様!
そんな完璧を絵に描いたような人間そうそういない。
夜神月一人を除いては‥‥‥
そんなふうに思っているちょっと痛くて可哀そうで滑稽な下僕は、
日々増進の一途を辿っている。
その事実がある限り、きっと『夜神月キラ様化計画』は着々と進行して行くことだろう。
本人にその気があるかどうかは別として。
ついでに一人だけ猛反対する輩がいたとしても‥‥‥
誰かとは言わない。誰かとは‥‥某カエ‥‥‥ゲフンゲフン!
とかく心の狭い男は嫌われ易いとだけ言っておこう。

 


キラ様万歳!新世界の神万歳!!女王様万歳!!!

 

 

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