エイプリルフール(5000hit記念)

今日も今日とて、世界の切り札探偵Lは仕事に励んでいた。
しかし残念な事に今この場に彼の愛する恋人(そう言い張っているのはLだけだが)はいない。
と言うのも急な依頼が入り、大学に行った恋人を残し彼一人で国際線の便に飛び乗ったからだ。
遠く太平洋を隔て離れ離れの恋人(くどいようだがそう言い張っているのはLだけだ)達。
一刻も早く愛する人の元へ帰りたくてLは頑張った。
PCの傍に飾った恋人の写真に(自分の写真は恋人にも許さないくせに)5分に1回は視線を送り、
1時間に1回は恋人の携帯に連絡を入れ(色々非合法な手段を使っているらしい)、
5時間に1回は「月く~ん!!」と、奇声を発し、
「月君がいないとやる気が起きません」と言うたびワタリに叱られ、
寝る時はワタリ特製月君人形(流石にダッチワイフタイプではなく布製ぬいぐるみだ)を抱き締め、
朝起きると即刻トイレに走って元気な息子を宥め、
とにかく恋人を置いて単身赴任or出張のLは頑張った。

(L、それは夫婦間で使う言葉です)
(いいじゃないか。気分に浸るくらい。それに私と月君は既に夫婦同然です)
(貴方が毎晩むりやり月様を泊めていらっしゃるだけだと思いますが)
(腰が立たなくなると判っていて月君は毎日ホテルに来るんです。全ては合意のうえです)
(御父上を左遷すると脅されれば、来ざるをえませんな)
(‥‥‥‥さぁ、仕事するぞ、ワタリ!)

そうして迎えた3月31日。

「もうじき私達が出逢った季節が来ますねぇ」
「初めてお会いになったのは冬ではありませんでしたか?」
「監視カメラ越しなんて、出逢いとは言いません。言葉を交わしてこその出逢いです」

(一目惚れですとおっしゃったのは、確か監視カメラの前だったと記憶しておりますが)
(そんな昔の事は忘れました)

「忘れもしない4月5日。私達の記念日です。あぁ、それまでには絶対帰らねば!」

その日は一日中二人で甘い時間を過ごすのです!と、勝手に盛り上がるカエル探偵。
だったら早く仕事してください、とのワタリの声なんか聞こえちゃいない。
その時、電話が鳴った。

「こ、これは‥‥!」

それは日本に置いて来た妻、いや恋人、いやいや愛する夜神月との愛の直通電話だ。

 

『やぁ、竜崎。元気に仕事してるか?』
「ラ、ララ、月君!?」

カエル飛びで飛び付いた受話器を耳に当てるなり聞こえて来た愛しい人の声。

『毎日毎日毎日毎日!電話をありがとう。
 こんなしょっちゅう僕に電話して仕事する暇あるのかなって心配になるくらい電話してくれたけど、
 大丈夫だった?ワタリさんに叱られなかった?』

何となく某読みなのはこの際無視しよう。

「し、心配してくださったのですか!?嬉しいです!
 私、一日一回は貴方の声を聞かないと全然やる気が起きませんから!電話は必須です!」
『フフフ‥‥何度も真夜中に起こされた僕もとっても嬉しいよ』

私達、やっぱり両思いですね!直ぐに結婚しましょう!法律なんてLの力でどうとでもなります!
貴方がキラでも構いません!私が貴方に裁きをさせないくらい、
私に夢中にさせればいいだけですから!

「L、心の声が全部口に出てます」

おっといけない。月君、今のはオフレコです。
もう遅いよ、カエル探偵。

『そうだね、いい加減僕もその気持ちに答えないといけないよね』
「ラ、月君?」
『フフッ‥‥竜崎』
「は、はい!」
『愛してるよ』
「!!!!!!!!!!!!!」

その一言を最期に電話が切れてしまったのにも気付かず、
世界の名探偵は今にも飛び出しそうなギョロ目をさらに見開いて、
たった今耳にした恋人の言葉を灰色の脳細胞全体に染み込ませた。

 

「き、き、きき、聞きましたか!?ワタリ!!!月君が遂に自白しました!!!!!」
「自白ではありません、L。告白です」
「とにかく、月君が言ったんです!私を愛していると!
 この頭脳明晰スポーツ万能ビル・ゲイツなんか目じゃないくらい大金持ちのイケメン探偵を
 心の底から愛していると言ったんです!」
「何やら余計な形容詞がたくさん付いておりますが‥‥」
「いいんです。全部本当の事ですから。さぁ、こんな事をしている場合ではありません!
 今直ぐ日本に帰ります!!」
「L、仕事は未だ終っておりません」
「仕事なんか少しくらい遅れても構いません、待たせておけばいいんです!
 それより記念日に式を上げるのも乙と言うもの!
 ワタリ、直ぐにエンゲージリングを用意しなさい!」
「L、バカみたいに喜んでおられる貴方にこんな事は言いたくないのですが‥‥」

既に帰る気満々で食べ残しのケーキを口に押し込んでいるLに、
ワタリが申し訳なさそうに声を掛ける。

「今日が何日かご存知ですか?」
「は?何を言ってるんだ?ボケたか?ワタリ。今日は3月31日だろ」

何気にワタリの額に怒りマークが浮かんだ事にLはちっとも気付かない。

「今Lがいらっしゃるこの国はそうですが。月様がいらっしゃる日本はそうではありません」
「あぁ、日付変更線を越えてますからね‥‥今日本は‥‥」
「4月1日です」
「それが?」
「4月1日というと‥‥」
「?」

クリームまみれの口もそのままに何となく嫌な予感がしてワタリを振り返るL。

「エイプリル・フールです」
「エイプリル‥‥フール?」
「そうです。嘘をついてもいい日です」
「う‥‥」

ヌルリと滑ったクリームがLの顎から磨かれたホテルの床へポタリと落ちる。

「そ‥‥?」
「今日は嘘をついてもいい日です。日本では」

両足を椅子の上に乗せた体育座りのまま、Lの体が椅子から転げ落ちる。

「ワ、ワ、ワタリィ!?う、う、う、嘘って何ですか、嘘って!
 月君が嘘をついたというんですか!?」
「さぁ、私には判りかねますが、一応言っておこうかと思いまして」
「こ、ここは日本じゃありません!私にとって今日は3月31日です!
 従って月君の言葉は有効です!」
「そう思っていらっしゃるのはL、貴方だけかもしれませんな」
「!!!!!!!!」

ショックの余り床から起き上がれないLを他所に、
『こちらが追加の資料です』とワタリが厚さ30センチあまりのファイルをデンとLの背中の上に置く。

「ワ、ワタリ‥‥月君に電話を‥‥先程の言葉の真意を確認‥‥」
「嘘だったら?」

嘘だと言われたら当分立ち上がれない。仕事なんか出来ない。

「本当だったら?」

今度は嬉しすぎて仕事なんか手がつかない。どちらに転んでも仕事は後回し。

「ホッホッホッ、一番の解決策はさっさと仕事を終らせて日本に帰り、
 Lが仰る記念日に月様に直接お尋ねなさる事ですね」

 

日本に帰る、と言ったワタリの言葉なんかきっとLの耳には入っていない。
それから三日、Lは悩み続ける。
愛する恋人の告白が日本基準だったのか、それとも今Lがいる国基準だったのか。
問い質してもはぐらかされると決まっているのに、無駄に脳味噌を酷使するL。
その裏で、太平洋を挟んだワタリと夜神月が同時に親指を立てていたことに、
やはり全く気付かない彼は、一応世界の切り札と呼ばれている。

 


おそまつさまです


※とりあえずキライトとLは恋人同士。未だ探り愛をしております。
第二のキラ(ミサ)が出て来るのは二人が出逢って一年後という事にしておきましょうか。
本当は4コマ漫画ネタだったのですが、4コマで納まらなかったので文章にしてみました。

 

 

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